- 有料閲覧
- 文献概要
本年はちょうど臨床病理学会の第30回記念総会にあたり,10月8日に始まった学会の最終日である10月10日が第12回世界臨床病理学会議の初日ということもあり,行事も非常に多彩で,成功をおさめた総会と言える.日本の臨床病理とともに歩んで30年,まさにそのパイオニアのお一人としての昭和大石井暢教授の総会長講演「臨床病理と30年」は我々後輩として十分に傾聴に価するものであり,また雑誌「臨床病理」の編集委員長を昨年までやられた日野志郎博士の記念講演「雑誌臨床病理の歩み」も先人のご苦労と,数々の困難の中で,「臨床病理を守り続けられた情熱は衿を正して我々が引き継いでゆく責任の重さを感じさせるものであった.ちょうど30年経過した臨床病理が今後どのようにあるべきかを問かけたシンポジウム「臨床病理の将来」(大場康寛,河野均也教授司会)はまことにタイムリーな企画で,多くの聴衆を得て,熱気の中で行われた.演者はそれぞれ国立。私立の大学,病院の検査部または検査科で第一線で活躍されている方々ばかりで,21世紀に向かって治療医学から予防医学へ進んでいくであろう医療に臨床病理の果たす役割は多く,その手始めとしてマススクリーニングによってクレチン病の早期発見をし,治療予防する実例で網野博士(阪大)は論じ,乳児と老人の医療問題を喜多博士(奈良医大),上田博士(久留米大)・桑島博士(香川県立中央病院)・森博士(佼成病院)は検査データの利用,診断への応用などについてそれぞれの立場で意見をのべられ,戸谷博士(国立小児病院)は臨床病理分化論を述べられた.いずれも将来に向けて各々の臨床病理への取り組み方法またはヴィジョンを形成する資料を与えてくれる有益なものであった.この企画が第50回臨床病理学会記念総会に再び行われたらどんな状態になるかという司会者の言葉は象徴的であった.
一般演題では癌の新しいマーカーとしてCA−19−9,POA(Pancreatic Oncofetal Antigen),TPA(Tissue of Polypeptide Antigen), PFK(Phosphofluo-kinase), ASP (Acid Soluble Protein), Cytosol LAP,などがあげられ, CK-BB,マクロCK,γ−GTPアイソザイム, Elastase−1,5−NPP−V,5−NT,ポララミンなども報告され,それぞれ50〜60%の胆癌患者からの検出率を示しよく臨床経過と相関するということであったが,ほとんどが消化器癌(腺癌)を中心にしたマーカーであった.最近の遺伝子工学の発達によるモノクローナル抗体についてはリンパ球のT細胞サブセットを扱ったものが6題もあり,かなりOK,LeuシリーズのMCA(Monoclonal Antibody)が使用されていることがわかった.その中で新しいロゼットを応用したT細胞サブセットの検定法,GMS,チオプロニンを用いる方法も見られた.また新しい試み鴬して細菌の同定に応用したもの(Campylobacter jejuni)があり注目を集めた.その他細菌の自動化・システムの演題もこの2,3年で出始め,理想的なシステムを模索中であると感じられた.
Copyright © 1983, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.