Neurological Surgery 脳神経外科 8巻11号 (1980年11月)

美しさ温かさそして懐かしさ 井奥 匡彦
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 美しさ,温かさ,そして懐かしさ.これらは情緒のうちでも知的で高等な感情であり,人間の情操の重要な部分を成すものである.美しい風景や絵画に心を動かされるとき,文芸作品や音楽に心を打たれるとき,その人には受動的にこれらの感情が生じてくるのである.また,人と人との触れ合いにおいても,かかる感情の起こることはよく経験せられる.人間は万物の霊長であるがゆえにいえることであるが,たとえば薄幸の人が,ふとある人との接触において,気付かぬままに無形の影響を受け,力づけられ,希望をもち,ある場合にはその人に憧憬を寄せるようになるのを見かけることがある.やはりそこには,美しさ,温かさ,懐かしさ(心を引かれる思い)を覚えるが,それは影響を与えた人の意識的(能動的)な行為によるものではなく,その人のもつ情操の豊かさによるものであるということができる.

 次に掲げるのは,かつて私の目に留った一編の随筆である.

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I.はじめに

 悪性脳腫瘍は見方によっては非常に化学療法を行うのに適した腫瘍といえる.脳腫瘍が脳というほとんど分裂機能を停止した組織に発生し,しかも転移も極めて稀であること等から,治療を腫瘍本体およびその周辺組織に集中して行えるからである.過去には,このような脳組織と脳腫瘍の生長解析学上の極端な差を利用して,分裂を抑制したり,または選択的に増殖中の細胞のみを殺す薬剤を用いれば,正常組織は特に傷つけず,腫瘍細胞だけを破壊することができると考えられた.

 事実,今から10年以前にはmethotrexateを始めとするantimetabolitesの頸動脈注入療法や髄腔内投与等が悪性脳腫瘍の患者に試みられた31).結果的には,これらの治療法は失敗に終わったのであるが,臨床家がこの生長解析学上の利点を利用できなかった原因が大きく2つ存在する.その第1は,腫瘍細胞はすべて分裂を繰返しているわけではなく,その一部しか常時は分裂を繰返していないこと9).しかも分裂していない腫瘍細胞も,ときに応じて分裂を始められるという事実.第2は脳組織には血液脳関門があって,もちろん腫瘍本体にはそのような関門がないにしても,薬剤の組織への移行がなんらかの形で阻害されているということである14,15)

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I.はじめに

 耳下腺局所症状に乏しく,後頭蓋窩の1/3を占める耳下腺原発の悪性混合腫瘍のために一側脳神経が広汎に障害され,のちに頸椎に転移した症例を経験した.その症状,経過は非定型的であり,診断は困難で,最終的には組織診で確定した症例について報告し,頭蓋外原発腫瘍の頭蓋内浸潤発育の存在に脳神経外科医の注意を喚起する.

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I.はじめに

 癌の放射線治療成績は1955年以来,コバルトの普及により,次いでLinac等の高エネルギー治療装置の開発利用により著しく向上した.放射線感受性中等度の扁平上皮癌等は初,中期なら大部分制御可能となり,被治療患者が多く社会復帰するようになると,放射線障害を少なくすること,機能保持の上治療することが要求されるようになった.またいわゆる難治性腫瘍や進行癌等の治療成績を上げるため,高LET(註1)放射線が生物学的作用の点で有効ときれ,中性子は英国Hammersmith Hospitalで効果が確認された8).わが国でも放医研,東大医科研で数百例の治験例がある.更に正常組織の障害を少なくし,中性子による難治性腫瘍に対する放射線療法として陽子線療法,中間子療法,重粒子線療法が米国ではトライアル中である.これらの加速粒子は物理的長所,生物学的作用において一長一短であり,臨床的評価は未確定である.これらのうち特に中間子の脳腫瘍に対する療法について特長と現況,将来性等について簡単に述べる.

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I.はじめに

 下垂体腺腫は直径5-10mmのmicroadenomaの時期に診断を下し,剔出手術を行うことが内分泌学的予後の面からみても非常に望ましい.しかしこの時期の腫瘍が通常のトルコ鞍単純撮影,CT,気脳撮影,脳血管撮影において異常所見を示すことは稀であり,これらの検査法はInicroadenomaの診断には役立たないことが多い.これに反してhypocycloidal tomographyによるトルコ鞍断層撮影は,腺腫による初期の変化をきわめて鋭敏にとらえることができ,最も診断的価値が高いといわれている.

 われわれは現在まで14例のpituitary microadenomaを経験しているが,これらmicroadenomaの診断に際して2mm間隔のthin-section hypocycloidal tomographyが非常に有用であった.そこでわれわれの経験を,従来の報告と比較検討した結果をここに報告する.

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I.はじめに

 われわれは脳腫瘍のin vitroの実験モデルとしてgelfoam (gelatin sponge foam)を用いた組織培養を行い,geifoam organ culture法として報告してきた1,2).本法は脳腫瘍を血管を含む器官として培養し,その結果,腫瘍組織の三次構造が充分維持できることがわかった.これまで光顕および電顕観察について報告したが,今回は走査電顕にて腫瘍組織の表面構造を観察した.一方,従来のmonolayer culture法による培養細胞を光顕と走査電顕との対比により観察したので,これらについて報告する.

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I.緒言

 小児の脳腫瘍の50.3-91%はグリオーマ系の腫瘍である2,6,7,18,30).未分化の腫瘍も多く,悪性度もさまざまである,また腫瘍の局在性も多様であり,同一の組織学的所見を持ちながら,その臨床像は完全に異なる場合も稀でない.このような特徴を持つ小児の脳腫瘍を治療してゆくうえで,どの因子がその予後を左右するかということを充分理解する必要がある.これらの患者はまた,発育途上にある小児であるという点から,腫瘍の疫学的見地のなかでも特に各年齢層とその腫瘍の特徴は重要で,その局在性,悪性度そして手術による死亡率や,放射線療法,steroid-chemotherapyの合併症等,今後更に検討されるべき問題がある.

 われわれはこれらの観点より500例以上に及ぶ小児の中枢神経系腫瘍を対象にその転帰を調査し,おのおのの腫瘍あるいは年齢層,更に各治療法等に細分して分析し,その予後に最も影響を及ぼす因子は何であるか,またそれに対応する処置を如何に施すべきかを検討した.第1報として,特に異なった腫瘍の悪性度と局在性を持つependymomaをとりあげ分析を試みた.

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I.はじめに

 脳腫瘍に対する化学療法において最大の治療効果を得るためには,抗癌剤の選定,投与量,時期,期間,経路,等について充分な検討が必要である.このうち投与経路に関しては全身投与法と局所投与法があるが,現在脳腫瘍に対して行われている局所投与法としては,薬剤の腫瘍血管への持続注入法3,4,9),髄腔内投与法16,17),嚢胞内投与法1,8,2,15)等が挙げられる.更に最近では,抗癌剤の剤型を変えることにより局所に長期間抗癌剤を持続放出する製剤,すなわち徐放性製剤が作成されており10,11,13,14),これらは全身投与に比べ副作用を最小限に抑え,しかも腫瘍組織内濃度を高め,接触時間を延長せんとする試みである.そして長期徐放性を保たせるために,従来は主に脂溶性抗癌剤に関する研究がなされてきた.しかし,頭蓋内投与を目的とした場合,より生理的条件に近く,副作用の少ない水溶性抗癌剤の使用が望ましいと考えられるが,現在までこれらについての報告は見られない.

 今回われわれは,水溶性抗癌剤であるBleomycinを用い,15日以上の長期徐放性を有する剤型を考案した.これは頭蓋内投与はもちろん,広く他領域での使用も可能であり,その基礎実験について述べるとともに,投与法に関する若干の文献的考察を加え報告する.

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I.はじめに

 くも膜下出血の2大原因疾患である脳動脈瘤と脳動静脈奇形の合併例は数多く報告されている9)が,脳動脈瘤と脳腫瘍との合併例10)の報告は比較的稀である.われわれは卒中様発作後,右片麻痺と運動性失語症が出現し,症状固定のまま12年間経過後に前交通動脈瘤と左側頭葉神経膠腫の合併をみた1例を報告する.特に脳腫瘍による神経学的症状が過去の出血発作の後遺症状で隠されていたということと,脳動脈瘤クリッピングと脳腫瘍摘出術を同時期に行い,良好なる経過をたどったという2点で興味ある症例につき,若干の文献的考察を加え報告する.

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I.はじめに

 "脈無し病"は1948年,清水・佐野17)の6症例の詳細な臨床的,割検的考察に基づいて提唱された慢性の非特異的動脈炎である.現在は"大動脈炎症候群"として一括されており,その主病変は大動脈弓およびその分枝血管,肺動脈に認められることが多い.

 本疾患に関しては厚生省の班研究による詳細な剖検例および臨床例の検討がなされている.しかし,"脈無し病"に伴った脳動脈瘤破裂に関する臨床報告例は極めて稀である.著者らは,"脈無し病"に伴う椎骨一脳底動脈分岐部動脈瘤の1例を経験したので,若干の知見を加えて報告する.

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I.はじめに

 前頭蓋窩硬膜動静脈奇形を,この領域の硬膜栄養血管であるanterior ethmoidal arteryを主要なfeedingarteryとするものとすれば,充分な記載が行われた症例は現在までに13例である1,4,6,10,13-16,18).この他にも数例が散見され3,8,14),またfeeding arteryの一部としてこの動脈やposterior ethmoidal arteryが関与している症例も報告されているが9,17),海綿静脈洞部ないし後頭蓋窩の硬膜動静脈奇形に比較すれば稀な疾患である.

 私どもは最近その1例を経験したのでここに報告するとともに,この部位の硬膜動静脈奇形の発症形式にはその血管構成に由来する一定の特徴があると考えられるので,文献例13例と自験例の合計14例の検討に基づき,前頭蓋窩硬膜動静脈奇形の特徴について若干の考察を試みたい.

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I.緒言

 外傷性急性後頭蓋窩血腫は,明確な局在脳神経症状を示さずに早期から重篤な脳幹圧迫症状を来たすので,適切な血腫除去,減圧術を行わないかぎり,すみやかに死の転帰をたどることにおいて,天幕上血腫の比ではない,比較的稀といわれる後頭蓋窩血腫であるが,その存在が広く認識されるようになってからは報告例も相次ぎ,硬膜外,硬膜下血腫については枚挙にいとまがないほどである.しかし,小脳内血腫にかぎって検討してみると,欧米で26例,本邦で4例報告されているだけで,このうち診断,治療上問題となる急性期症例は13例のみである.

 今回われわれは,後頭部打撲によって発生した典型的な外傷性急性小脳内血腫例を手術によって救命し,何らの神経症状も残すことなく治癒せしめえたので,文献的考察を加えて報告する.

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I.はじめに

 小児の頭蓋顔面奇形のなかには,顔面頭蓋の発育障害のために両眼離反,両眼球突出,外斜視,下顎突出等が認められるcranio-facial dysostosisがある.このcraniofacial dysostosisは1912年にCrouzonがDysostosecranio faciale hereditaireと命名し,遺伝性,家族性に起こる狭頭症の特殊型であることを述べた.以来,cranio-facial dysostosisにつき数々の報告がみられる.通常cranio-facial dysostosisは顔面奇形のほかに,冠状縫合,矢状縫合の早期癒合のためにoxycephalic craniosynostosisを呈することが多く,時折先天性水頭症を合併する.この場合は顔面頭蓋の発育障害,狭頭症,水頭症の三者が競合するために,頭蓋の変形が著明でクローバー葉状を呈し,cloverleaf skull syndromeと呼ばれている.

 今同,われわれはcranio-facial dysostosisにhydrccephalusを伴った症例を経験したので,本症例の発育経過やhydrocephalusの発生機序につき若干の文献的考察を加えて報告する.

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I.はじめに

 最近われわれは診断が困難であったcraniospinal typeのforamen masrnum neurinomaの全摘出例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
8巻11号 (1980年11月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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