Neurological Surgery 脳神経外科 48巻12号 (2020年12月)

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 小児科領域で「小児は成人のミニチュアではない」という表現が用いられるのはご存じでしょうか.これは小児の専門性や特殊性を強く主張する意図をもって用いられます.小児脳神経外科に長く携わってきた私としては,脳神経外科ではこの点を現状ではあえて強調しないほうがよいと思います.この考えに至った理由を述べたいと思います.

 私が新生児の脊髄髄膜瘤の修復や乳児のシャント手術を最初に経験した頃は,小児例は体が小さいのみならず,皮膚は薄く,頭蓋骨・脊椎は十分に骨化せず軟らかいので,確かに「小児は成人のミニチュアではない」と感じました.しかし小児例の手術を多く行うようになって,顕微鏡下の脳や脊髄は,乳幼児であっても成人例と同じようにみえることに気づきました.さらに,松果体部,脳室内,トルコ鞍上部などの脳深部,あるいは脊髄髄内の病変の術野は,小児例では浅く,顕微鏡下での手術操作が行いやすいため,「小児は成人のミニチュアである」と感じるようになりました.また,小児の脳は牽引しても壊れにくく,動脈硬化がないので血管の操作も容易です.このように,「小児は成人のミニチュアである」という点に助けられて手術ができると意識するようになりました.

総説

Telestroke 石原 秀行 , 鈴木 倫保
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Ⅰ.はじめに

 現代の電信機器の発展は目覚ましい.1990年代のインターネットと携帯電話の普及,2000年代後半からのスマートフォンやタブレットの普及と時を同じくして,脳梗塞急性期治療に革命が起きた.それは,recombinant tissue-type plasminogen activator(rt-PA)療法と脳血管内治療による再開通療法である.しかしながら,それらの高い有効性にもかかわらず,脳梗塞発症患者数に対する実施率は低い.これは,発症した患者の多くが,それら専門的治療を行う施設へ搬入されていないからである.

 専門的治療に常時対応できる施設は限られる.脳梗塞急性期治療では,時間が転帰を左右する最大の因子であるため,24時間体制で診療提供できる施設間ネットワークの構築が不可欠であり,ネットワークを構築する施設が担う機能を明確にする必要がある.脳卒中における遠隔医療(telestroke)は,このネットワーク構築に非常に有効であり,標準治療の均てん化には欠かすことができないものとなっている.

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Ⅰ.はじめに

 慢性硬膜下血腫は脳神経外科医が日常診療でしばしば遭遇する疾患の1つである.高齢化に伴いその罹患者も増加する.一方で,高齢者は認知機能低下をはじめさまざまな余病を患っていることが多い.75歳超高齢者の8割が2疾患以上,6割が3疾患以上の慢性疾患を併存しているとも報告されている6)

 高齢の慢性硬膜下血腫患者は手術目的の入院により余病の悪化や認知機能低下,廃用の進行などを生じ,時に退院調整に難渋することがある.現に,Toiら12)がわが国の包括医療費支払い制度(Diagnosis Procedure Combination:DPC)データ(2010〜2013年)から検討した慢性硬膜下血腫の報告では,80歳以上の26.2%,90歳以上の38.1%で転院を余儀なくされている.手術を要した慢性硬膜下血腫の退院ないし転院調整に焦点を絞り当院症例を後方視的に検討した.

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Ⅰ.はじめに

 脳室炎を伴う重篤な髄膜炎には,多房性水頭症が続発し治療に難渋することがある.特に新生児の髄膜炎では高頻度に脳室炎を合併し,約30%に隔壁形成を認めたとの報告がある5).治療は髄液腔を単一化した上での脳室腹腔短絡術(ventriculoperitoneal shunt:VPS)であるが,経時的に髄液腔の構造が変化し,病態の収束までに複数のデバイスの導入を要する場合もある.しかし,感染やシャント不全などの合併症や,デバイスごとの流量管理の煩雑さを考慮すると,シャントシステムを最小限にとどめる必要がある.今回われわれはmultimodalityを駆使し,単一のシャントシステムで管理し得た髄膜炎後多房性水頭症の1例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 脳神経外科手術後に予想外の視力障害を来した報告は散見されるが,正確な病態が明らかではない症例も多い5).今回われわれは,未破裂脳動脈瘤開頭術中の偶発的眼窩内進入に起因して眼球後部の液体貯留と眼窩・眼瞼気腫を来し,眼瞼腫脹を伴って視力障害・眼球運動障害等を合併した症例を経験した.後方視的には眼球突出も認められ,眼窩内圧上昇によって脳神経・眼筋等の虚血を来すorbital compartment syndrome(OCS)9,10)の可能性が考えられた.本例の臨床経過を提示し,その病態について考察する.

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Ⅰ.はじめに

 後下小脳動脈(posterior inferior cerebellar artery:PICA)の解剖はバリエーションが多い.両側のPICAを交通する側副血管は,PICA communicating artery(PICA交通動脈)として知られている.この血管はPICAのchoroidal arch近傍以遠より生じてarterial bridgeを形成し,一側のPICAからvermisを越えて対側PICAの支配領域へ灌流している1)

 1991年,Hlavinら5)はこの血管に生じた動脈瘤(artery aneurysm:AN)をPICA communicating artery aneurysm(PICA交通動脈瘤)として初めて報告した.PICA末梢部の動脈瘤は比較的少なく,さらにPICA本幹ではなくこの側副血管に生じた動脈瘤は極めて稀で,いまだ十分に認知されていない.今回,われわれは破裂PICA交通動脈瘤の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 われわれは,軽微な頭部外傷後に頭痛と深部白質梗塞で発症した中大脳動脈(middle cerebral artery:MCA)M2解離の1例を経験した.後方視的には10カ月前に撮像された突発性頭痛時の画像でも軽度の紡錘状形態が認められ,今回その形状は変化していた.長期間を経て形状変化するM2解離の報告25,26)は稀であり,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 頚動脈ステント留置(carotid artery stenting:CAS)後のステント血栓症は比較的稀な疾患ではあるが重大な合併症である.冠動脈ステントにおいては約1〜3%の症例でステント血栓症を生じているが4,13),CAS後のステント血栓症発生率は0.5〜5%と報告されている5,18).ステント血栓症の発症には不十分な抗血小板療法や過凝固状態(糖尿病,担がん状態など),局所的問題(血管解離,plaque protrusionなど)などさまざまな要因があるが,稀なものとしてアレルギー性アナフィラキシーショックに伴うステント血栓症が存在する11).今回,頚動脈ステント留置後に食物アレルギーが誘因で全身性皮疹を呈し,ステント血栓症を生じた1例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 中枢神経原発悪性リンパ腫は近年増加傾向にあるが,視神経交叉原発の報告は少ない.視神経交叉に病変を来し得る疾患には炎症性疾患や膠原病関連疾患などがあるため,病初期には鑑別が困難であることが多い.今回,診断までに苦慮し,開頭下生検にて診断し得た視交叉原発の中枢神経原発悪性リンパ腫を経験したため,文献的考察を加え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 外傷性頚動脈解離(traumatic carotid artery dissection:TCAD)は,交通外傷やスポーツ外傷,暴行,転落などによる頚部の過伸展・過屈曲,頭部の回旋や鈍的外傷に伴う頚部への直接打撃などに起因する稀な疾患である15).脳梗塞やくも膜下出血を発症した場合,不良な転帰をたどることが多い9).従来,重症頭部外傷の合併症として外傷センターや救命救急センターから報告されることが多かった15).今回,二次救急の現場で受傷後徐々に神経脱落症状が出現して診断されたTCADを経験した.TCADに対して,機械的血栓回収療法と頚動脈ステント留置術を併用することによって良好な転帰をたどった1例について,文献的考察を加え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 Positional vertebral artery occlusion(PVAO)とは,頭位変換に伴う椎骨動脈の閉塞であり,稀な疾患群である.代表的なものでは,Bow Hunter症候群(BWSy)が知られており,頚椎の回旋運動に伴う椎骨動脈の狭窄または閉塞により,後方循環不全を呈する19).頚部の回旋運動に伴う椎骨動脈の機械的閉塞を来す症例の報告は多々見受けられるが3,5,10,11),頚部の屈曲や伸展に伴う椎骨動脈閉塞を来す症例はほとんどない16)

 今回われわれは,頚部後屈で後頭顆骨棘による椎骨動脈水平部(V3)での閉塞に伴い,後方循環系の多発脳梗塞を来した症例を経験したので報告する.

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Ⅰ.経験症例

 〈患 者〉 53歳 女性

 既往歴 高血圧,気管支喘息

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Ⅰ.経験症例

 〈患 者〉 77歳 男性

 現病歴 3カ月前より,両大腿後面のだるさと痛みが出現した.徐々に歩行障害が出現し,残尿感も認めるようになったため当科を受診した.腰痛は認めなかった.

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Ⅰ.経験症例

 〈患 者〉 74歳 女性

 合併疾患 うつ病,パーキンソン病(前医入院中に上肢振戦により診断,未治療)

連載 脳神経外科日常診療に必要な運転免許の知識

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POINT

●神経心理学的検査のみをもって運転再開の可否を評価することは困難であるが,一部の高次脳機能検査(TMT-B)や視覚情報処理検査(UFOV)の有用性が報告されている.

●ドライビングシミュレータを用いての評価や訓練は,運転再開の可否判断や訓練プログラムとして有用な可能性がある.

●実際に車を運転しての路上評価や訓練は,運転再開の可否判断や訓練プログラムとして有用な可能性がある.

●精神面・情動面での問題が自動車運転の安全性に影響を与える可能性がある.

●自己の障害に対する認識や自己コントロールを促すことが安全に自動車運転を行うために重要である.

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目次

欧文目次

次号予告

編集後記 齊藤 延人
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 本号の扉では,坂本博昭先生が,「脳神経外科で「小児は成人のミニチュアではない」と主張すべきか?」とのタイトルで寄稿されています.確かに,小児といっても年齢の幅がありますので,幼児期を過ぎれば大人の縮図のようですが,先生の想いには,若手に,難しいことはないから小児脳神経外科に興味をもってほしいとの意図があるようです.総説では,石原秀幸先生らが「Telestroke」と題して,脳卒中における遠隔診療のことを書かれています.COVID-19の影響で遠隔診療の方向性はますます加速しているようです.初診での遠隔診療にはハードルがあるようですが,strokeならではの対応の仕方もあると思われます.また連載は「脳外傷後高次脳機能障害患者の自動車運転再開」で,河井信行先生らによる寄稿です.その他,研究論文,テクニカル・ノート,症例報告,教訓的症例と本号は論文が満載です.

 さてこのたび,雑誌『脳神経外科』は新年号から大きくリニューアルをすることとなりました.新機軸として毎号特集テーマを決めて,その分野を牽引するリーダーにお力添えをいただき,企画をしていただきます.特集テーマは,脳血管障害,脳腫瘍,脊椎・脊髄,機能,小児,学際的領域など,脳神経外科学のサブスペシャリティー分野はもちろん,臨床・研究に資するさまざまなテーマを取り上げます.第1巻からほとんど変わらず長年親しんできた本誌の表紙ですが,こちらもまったく新しいものになり,判型も大きくなり,多くの図表をより見やすく読み進められます.隔月の発行となり,初回の49巻1号(2021年1月発行)は,兵庫医科大学脳神経外科の吉村紳一教授の企画で,特集テーマは「脳動脈瘤治療」です.次いで,49巻2号(2021年3月発行)は特集テーマ「画像読影」で,新潟大学脳研究所脳神経外科学分野の藤井幸彦教授が企画されます.49巻3号(2021年5月発行)は特集テーマは「グリオーマ」で,熊本大学脳神経外科の武笠晃丈教授の企画となります.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
48巻12号 (2020年12月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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