Neurological Surgery 脳神経外科 48巻11号 (2020年11月)

事業継続と持続可能性 坂井 信幸
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 令和2(2020)年は,世界中が新型コロナウイルスに翻弄され,われわれが携わる医療を含めすべての人の生活が一変した年です.本稿の執筆を依頼されたのは昨年末でしたが,真っ先に浮かんだ話題は,25年目の節目を迎えた阪神淡路大震災をきっかけに神戸で作られ,歌い継がれてきた「しあわせ運べるように」にまつわる話題でした.書きかけだった原稿の前半を紹介します.

 ——今年も1月17日がやってきました.東日本大震災の16年前に,阪神淡路大震災が発生した日です.今年は25年目ということで,いつにも増して追悼イベント,そして防災への注意喚起の催しが市内のあちこちで行われ,メディアも大きく取り上げていました.そこで必ず流れる歌が「しあわせ運べるように」です.この歌には,どうしてだろうと思うほど人の涙腺を緩める力があります.そして,いろいろなこと,幸せとは何かを考えさせる力があります.私がこの歌に初めて触れたのは,平成13(2001)年4月に神戸市立中央市民病院(当時)に転勤し,その12月の神戸ルミナリエの点灯式で,息子が通うポートアイランド内の港島小学校の児童がこの歌を唱うことになっていたため,記念に作成されたDVDを学校から配布されたときでした.初めて聴いたとき,被災した知人はいるものの,親族も含めて犠牲者が近くにいない自分が思わず涙ぐんだことに驚きました.その後何度聴いても,涙をこらえながら聴いています.おそらく皆さんも一度ならず耳にされたことだと思いますが,昨今はYouTubeという便利な動画サイトがありますので,そのいくつかを紹介します1,2).他にも多くの方に歌われていますので,ぜひ一度視聴してみてください.

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Ⅰ.はじめに

 日本における65歳以上の高齢者人口は,2018年10月1日現在で3558万人となり,総人口に占める割合(高齢化率)は28.1%となった47).日本では急速に高齢化が進行しており,高齢者における心房細動の有病率の増加,心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患の増加により,抗血栓薬の服用患者が激増している.抗血栓薬の服用は心筋梗塞や脳梗塞などの予防に効果的であるが,同時に頭蓋内出血を代表とする出血性合併症の発症を増加させるため,医療者は適切な抗血栓療法を心がけなければならない.しかし,近年の脳卒中診療の発展に伴い,数種類の直接型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)や抗血小板薬2剤併用療法(dual antiplatelet therapy:DAPT)などオプション治療の選択肢が拡がり,抗血栓薬の選択や投与のタイミングに悩むことも少なくない.

 本稿では,抗血小板薬,抗凝固薬の効果と安全性についてエビデンスを中心に再整理し,適切な抗血栓療法を選択できるよう導きたい.さらに,頭蓋内出血など出血性合併症を生じた場合には,症状を最小限に抑える必要があり,抗血栓薬に対する中和療法を含む適切な対応法についても解説する.

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Ⅰ.緒  言

 近年,血管内治療の進歩により,未破裂脳動脈瘤に対する直達手術の役割はより限定的になってきている.血管内治療に対する直達手術の主な長所として,柔軟性(wide neck瘤やdomeから血管が分岐している瘤に対し,血管形成的なclippingやbypass併用が可能なこと),安全性(直視下で行えるため,術中破裂など万が一の合併症にも対処しやすいこと),根治性(再発率が低いこと)が挙げられるが,侵襲性に関しては間違いなく血管内治療に劣る.

 Lateral supraorbital approach(LSOA)は開頭野にsylvian fissureおよび最小限の前頭葉しか露出せず,従来のpterional approach(PA)に比べ,小さな皮膚切開と開頭範囲で直達手術が可能な方法である(Fig.1)2).われわれは前方循環未破裂脳動脈瘤に対し,直達手術の長所を損ねずに低侵襲化することを目指し,LSOAで直達手術を行っている.この治療成績を報告し,従来のPAと比較した利点と注意点を考察する.

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Ⅰ.はじめに

 超高齢社会の本邦では,高齢者の脊椎脊髄疾患に遭遇することは稀ではない.今後,加齢により進行する頚椎変性疾患の患者は,ますます高齢化するものと考えられる.一般的に,高齢者は併存症が多く,術前の全身状態も不良であると考えられており,年齢を理由に,医療者側あるいは患者側が手術に躊躇する場面に遭遇することがある.

 一方,手術成績に関しては,高齢者では術前の神経症状が不良で改善率も低いとする報告が多い1,2,13,19,20).これまでにも高齢者の頚椎変性疾患に対する手術の報告は散見されるが,古くは60歳以上を対象としており20),その後は70歳あるいは75歳以上を高齢者とする報告が多い1,13).また,80歳以上であっても10例未満の報告が多く2,8,19),頚椎症の原因疾患,比較する対照群の内訳および手術術式は報告者により一定していない.

 今回われわれは,頚椎椎弓形成術を施行した80歳以上の頚椎症性脊髄症21例について後方視的に検討を行い,一般高齢者と同様の患者背景をもつのか,過去の報告例と同等の手術成績であるのかを検証した.また若年群と比較して,術前の全身状態や手術成績が不良であるのかについても検証した.

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Ⅰ.はじめに

 特発性正常圧水頭症は診療ガイドラインによる疾患概念の普及と社会の高齢化により罹病患者が増加したため,シャント術の件数は増加している.また,SINPHONI(Study of Idiopathic Normal Pressure Hydrocephalus on Neurological Improvement)-23)において,腰部くも膜下腔—腹腔短絡術(lumbo-peritoneal shunt:L-Pシャント)は脳室—腹腔短絡術(ventriculo-peritoneal shunt:V-Pシャント)と比較して非劣性が証明された.脳に穿刺を行わないL-Pシャント術を選択する施設が増加しており,全国疫学調査5)では,V-Pシャント43.2%,L-Pシャント55.1%の施行率である.

 一方,L-Pシャント腹部操作時の体位は,腰椎側手術後に側臥位から仰臥位に変更する方法2),手術台の回旋を利用した体位変換を行う方法7)が報告されている.手術台の回旋を利用した方法はドレープの交換を必要とせず,術中感染の合併症もないが患者転落の危険がある.われわれの施設でも手術台の回旋を利用した体位変換を行ってきたが,2017年8月より体位変換を行わず,側腹壁アプローチにて腹側カテーテルを留置する手術法を行っている.

 今回,体位変換を行わない側腹壁アプローチによるL-Pシャントについて画像的検討を行い,その手術成績について報告する.

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Ⅰ.はじめに

 脳血管内手術において,さまざまな要因により上腕や鼠径部からのアプローチが困難な場合,その代替として頚動脈の直接穿刺が行われる4,5).今回,頭蓋内内頚動脈巨大動脈瘤に対して,頚部切開して直視下に総頚動脈(common carotid artery:CCA)に2本のシースを挿入・留置して,フローダイバーターステント(flow diverter stent:FDS)留置および瘤内コイル塞栓を行ったので,その手技に関して報告する.

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Ⅰ.はじめに

 脳出血手術後の血腫摘出腔は通常,経時的に縮小する.再出血以外で,短期間に再増大しmass effectを示すことはない.今回われわれは,皮質下出血の開頭術後,一時縮小した血腫腔が急速に拡大し,porencephalic cystを形成して症候化した1成人例を経験した.極めて稀な経過であり,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 従来,海綿状血管腫(cavernous hemangioma)と称されてきた疾患は,病理学的には血管腫瘍ではなく静脈成分を主体とした低流速の血管形成異常である.これまで本疾患に対してはさまざまな名称が用いられ混乱がみられたが,最近,International Society for the Study of Vascular Anomalies(ISSVA)分類に基づき血管奇形(vascular malformation)の一種として静脈奇形(venous malformation)と診断されるようになってきている2,6,23).本稿ではvenous malformation(VM)の名称に統一し,われわれが経験した内視鏡下経鼻手術(endoscopic endonasal surgery:EES)を行った下内側型眼窩静脈奇形(venous malformation of the orbit:VMO)の2症例について,手術方法と工夫について述べる.

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Ⅰ.はじめに

 脊髄動静脈奇形(spinal arteriovenous malformation:SAVM)は,脊髄において毛細血管を介さずに動脈から静脈に血流が通過する疾患の総称であり,異常血管塊であるnidusを有する動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM)とnidusを有さない単純な短絡血管である動静脈瘻(arteriovenous fistula:AVF)に大きく分けられる.動静脈短絡部位や治療的観点などからさまざまな分類が提唱されており,世界的同意は得られていないが,dural AVF,perimedullary AVF,intramedullary AVM(glomus type,juvenile type)に分類することが広く受け入れられている16)

 発症様式の多くはvenous congestionが原因で,脊髄症状が緩徐に発症し,緩解と増悪を繰り返しながら徐々に進行していくが,中にはnidusやvarix,動脈瘤からの出血により突発性に脊髄症状が出現する場合もある15).稀な疾患であるが重篤な症候を来す可能性があり,若年者にも発症するため臨床的に重要な疾患である.

 今回われわれは,髄膜刺激症状のみを認め,細菌性髄膜炎と酷似した臨床所見を示した脊髄動静脈奇形(intramedullary AVM)の1例を経験したため報告する.

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Ⅰ.はじめに

 頭蓋内くも膜囊胞は,出生時もしくは生後間もなく形成され,多くは無症候のまま残存すると考えられ,画像検査で偶発的に発見されることも少なくない.くも膜囊胞が増大する場合はその大多数が小児期に進行し,成人期に進行することは非常に稀である2,16).成人期にくも膜囊胞が増大を続けたり,臨床症状を来したりするといった報告は少ない.また,成人期に軽度の症状が固定した状態で経過した後にくも膜囊胞がみつかった場合,くも膜囊胞の治療により長期固定した症状が改善する可能性の判断は困難である.くも膜囊胞に対する外科治療には少なからず合併症があることを考慮すると5,12),症状固定後どの程度の期間までが手術適応と判断できるかに関して,コンセンサスが得られていないのが現状である.

 成人期に側頭円蓋部くも膜囊胞を診断された後,精査にて視野欠損,認知機能障害を認め,2年の経過で軽度の左上肢麻痺が新規に出現したため新規症状改善目的にて開窓術を施行し,左上肢麻痺に加え,視野欠損,認知機能障害のすべての症状が改善した稀な症例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 腰仙椎レベルの非出血性脊髄硬膜外静脈瘤による圧迫が原因で神経根症状を来した症例報告や,頚胸椎レベルの脊髄硬膜外静脈瘤が出血や血栓化により神経症状を来した症例報告は散見されるが,頚胸椎レベルで血栓化を伴わない非出血性脊髄硬膜外静脈瘤が神経症状を来した報告は,われわれが渉猟し得た限り過去にはない.

 今回われわれは,脊髄症にて発症した頚胸椎レベルの血栓化を伴わない非出血性脊髄硬膜外静脈瘤の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 Kissing aneurysmsとは,異なる部位から発生した2つの脳動脈瘤の壁が接している状態と定義されている.稀な状態であり,0.2%の頻度と報告されている12).Mirror aneurysmsとは,両側頭蓋内動脈の同じ場所に左右対称性にある脳動脈瘤であり,2〜12%の頻度と報告されている2,6,8,9).これら両方を満たすkissing mirror aneurysmsは非常に稀である7,10,11).術前に診断することはしばしば困難となるが,治療方針を決定する上でこの病態を知っておくことは非常に重要である.

 われわれは,破裂前交通動脈瘤に対しコイル塞栓術を行ったが,その後再破裂したため開頭脳動脈瘤クリッピング術を行い,kissing mirror aneurysmsであったと認識した症例を経験したので報告する.

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Ⅰ.経験症例

 〈患 者〉 60歳 女性

 主 訴 右不全麻痺

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Ⅰ.経験症例

 〈患 者〉 31歳 女性

 既往歴 なし

追悼

西本 詮先生のご逝去を悼む 伊達 勲
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 岡山大学脳神経外科初代教授を務められた西本 詮先生は,令和2年8月20日,満94歳でご逝去されました.ここに謹んでご冥福をお祈り申し上げます.

 西本先生は岡山医科大学を昭和24年に卒業され,岡山大学第一外科,当時の陣内外科に入局されました.昭和28年にフルブライト留学生として米国ペンシルベニア大学に留学,昭和30年に帰国,昭和41年に岡山大学医学部脳神経外科学教室の初代教授に就任されました.平成3年の定年退官後は,香川労災病院長を平成10年まで務められました.

連載 脳神経外科日常診療に必要な運転免許の知識

(4)脳卒中 武原 格
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POINT

●道路交通法等の法律を知る.

●運転再開の時期や可否は包括的に判断する.

●臨時適性相談,臨時適性検査,診断書等,運転再開の流れを説明できる.

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目次

欧文目次

次号予告

編集後記 飯原 弘二
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 令和2年4月の本誌の編集後記で,新型コロナウイルス感染症の蔓延に関する史上初めての,法律に基づく「緊急事態宣言」について述べましたが,半年後の10月現在もわれわれ脳神経外科医の日常臨床に大きな影を落としています.本年の日本脳神経外科学会学術総会もWEB開催との併催になりました.

 本号の扉では,神戸市立医療センター中央市民病院の坂井信幸先生から,新型コロナウイルス感染症の対応に関する重要な寄稿を頂きました.未曾有の感染症の前に,医療も社会全体も甚大なダメージを受けています.先の見えない苦難の中で「持続可能性」を目指すためには,医療を担う者も,何が大事で優先すべきかを取捨選択することが求められます.「強い心」「支え合う心」「絆」がキーワードであるとの坂井先生のご指摘に異論を唱える人はいないと思います.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
48巻11号 (2020年11月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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