Neurological Surgery 脳神経外科 47巻1号 (2019年1月)

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 いつの時代でもそうなのかもしれないが,それにしても今日の社会情勢の変化するスピードは速すぎる.今後,変化はさらに加速しながら進んで行くことになり,それに伴って若い人たちの考え方,生き方は確実に変化してきている.数年前から現代は“VUCA”時代だと言われている.世の中の状況はVolatility(激動),Uncertainty(不確実),Complexity(複雑),Ambiguity(不透明)のようである.今日の日本の,また世界の情勢を見れば,むべなるかなと思う.当然,医療の世界も変化し目覚ましい進歩をとげており,人の寿命の延長もとどまるところをしらないようである.今の十代の人たちの50%は,100歳以上まで生きる時代に来ている.彼らはきっと普通に80歳ぐらいまで働くことになるのであろう.同時に,現代は私が十代だった50年前とは比較にならないほど大量の知識・情報に囲まれ,グローバル化,IT化が進み,AI,ロボットの活躍し始めている時代である.このまま行くと11年後の2030年には,AIにより労働力人口は半減して人口の25%となり(現在の労働力人口は6,500万人で全人口の50%である),2045年にはさらにその半分の12%になるという説もある.時間の流れはますます早くなり,これまでの10年は5年あるいは3年で経過し,これまでの考え方や生き方は到底役に立たなくなる.一方で人は長寿となり,人生設計は長く,そして複雑になり,当然社会のあり方も変わってゆく.人生は従来の教育・仕事・引退の3ステージ設計から,4から5ステージ設計へと変化することを余儀なくされる1).若い人たちはこれをどう乗り越えてゆくのであろうか.ヒントはありそうだが容易ではない.日本の社会もhostageシステム(1つの組織に生涯勤務し,若い時の稼ぎは年を重ねてから還元される従来の日本の一般組織のあり方)からpay for performanceシステムに変化してゆく.これもまた,ある意味厳しい世界である.

 今の若者たちはこのような時代の流れを敏感に嗅ぎとり,それに調和した生き方を模索しようとしているのではないだろうか.一方でわれわれは,このような状況を,ある意味これまでの自分たちの育ってきた枠組みの中で判断しているのではないだろうか.6年ほど前,当院は麻酔科医師が大量に退職し,さらに5年ほど前には初期研修医の採用に大きな不足を来し,危機的な状況に陥った.われわれはそれまで若者が何を求めてどう行動しているか,気づいていなかったのである.

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Ⅰ.はじめに

 モントリオール神経研究所で,Penfieldらによっててんかん外科の術前精査としての頭蓋内電極留置術が初めて行われたのは,1939年に遡る2).当初は硬膜「外」に電極が留置されたが,その後は硬膜下電極が主流となった.一方,定位的深部電極留置によるてんかんの術前評価は,Talairachらによって1950年代に導入された30).それから現在まで,両者の技術を用いた頭蓋内脳波測定は,てんかん外科の術前精査におけるgold standardであり続けている18)

 てんかん外科の領域において,頭蓋内電極留置は汎用される手技であり,新しいデバイスの登場で低侵襲化も進んでいる.一方,画像診断の進歩や経験の蓄積により,切除計画に電極留置を要さないケースも増えている.頭蓋内電極留置の適応には施設間の差が大きいが,おおむね切除術を行う症例の20〜40%に施行されている18).頭蓋内電極留置は,全身麻酔と開頭・穿頭を要する侵襲を伴う手技なので,適応は常に慎重であるべきである.本稿では,頭蓋内脳波測定の基本的な方法や理念から,その適応と限界について紹介する.

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Ⅰ.はじめに

 パーキンソン病に対する脳深部刺激療法(deep brain stimulation therapy:DBS)は,薬物療法で改善が不十分なパーキンソン病の運動合併症の治療手段として確立されている35)

 DBSには,視床刺激術,視床下核刺激術(STN-DBS),淡蒼球刺激術(GPi-DBS)があるが,視床刺激術は専ら振戦の治療に用いられ,パーキンソン病の運動合併諸症状の改善には,STN-DBSまたはGPi-DBSが適応される.STN-DBSはBenabidら5)により,GPi-DBSはSiegfriedらにより49)開発された手術方法で,両者はいずれも運動合併諸症状を改善するが,その優劣についてはいまだに議論があり,症例ごとにいずれの手術を適応するか検討する必要がある.

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Ⅰ.はじめに

 乳児期水頭症治療の主目的は,脳損傷を可逆的なうちに阻止して,最良の精神運動発達が得られる状態に導くことである.そのために,頭蓋内圧および髄液動態を,できる限り正常な状態に維持する必要がある.従来,髄液シャント手術はその標準治療であり,この目的達成のために各種シャントシステムの開発と手術手技の工夫がなされてきた.そして,20世紀末には神経内視鏡手術が飛躍的に発展し,内視鏡下第三脳室開窓術(endoscopic third ventriculostomy:ETV)が積極的に施行されるようになった.ETVは体内に異物を留置せず頭蓋内髄液短絡を作れるため,乳児の外科治療としては実に魅力的である.実際に患児の両親へ両手術を提示すると,効果がなく再手術となるリスクを承知の上でも,ETVを選択される方は多い.しかしながら,その時われわれには,できる限り明確な理由をもって両手術のいずれかを推奨すべき姿勢が,本来は求められるはずである.

 2017年10月に名古屋市で開催された日本脳神経外科学会第76回学術総会では,両手術の選択について,参加者投票システムを用いてコメンテーターのレビューとともに議論された.同投票結果を踏まえ,本稿では脊髄髄膜瘤に合併する水頭症の乳児期治療について考える.

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Ⅰ.はじめに

 くも膜囊胞は,脳脊髄の表面や頭蓋底部などにおいて,くも膜により形成された囊胞壁の中に脳脊髄液が貯留し,ときに周囲脳を圧迫する先天性の異常である.多くは無症候性であり治療の対象とならないが,脳や脊髄への圧迫による症状を認める例に対しては手術が行われる.

 治療法としては,囊胞壁を切除する方法,囊胞の開窓を行い脳室や脳槽との間に髄液が交通するようにする方法,囊胞と腹腔をシャント(ventriculoperitoneal[VP]シャント)し,囊胞内の髄液を腹腔に流してしまう方法がある.また,囊胞の開窓については,顕微鏡下に実施する方法と,内視鏡を用いて行う方法がある.近年は,手術による侵襲性の低さから内視鏡による開窓術を第一選択とする考え方が普及している一方,囊胞の縮小効果が高い囊胞腹腔シャント(cyst peritoneal[CP]シャント)術が好ましいとする意見もある.

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Ⅰ.はじめに

 脳血管障害は日本人の国民病であり,その最大の危険因子は高血圧症である.近年,多様な薬効の降圧薬が登場し,高血圧症の治療は比較的容易なものとなった.また,脳血管障害発症予防の観点から最も重要なのは血圧値そのものであり,J-curve現象も存在しないという大規模試験の成果を信じるならば,血圧管理はそう難しいものではないだろう.しかしながら,目の前の患者は血圧が高いのみならず,さまざまな合併症を有していることも少なくないため,目標血圧値を定め,適切な降圧薬を選択するのが難しいと感じることも多い.本総説では,脳血管障害発症予防の立場から高血圧症をどのように診療し,管理するのがよいかについて私見を含め概説してみたい.

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Ⅰ.はじめに

 放射線治療は頚部悪性腫瘍患者の生命予後を改善し,またintensity-modulated radiation therapy(IMRT)など高精度照射技術の進歩は,正常組織への照射影響を軽減した.しかし頚動脈は放射線治療の標的となるリンパ節と隣接するため,高い線量を受けやすい.その結果,頚動脈狭窄症は,照射後5年あるいは10年以降に現れる放射線晩期障害として知られている2,5,9).ただし動脈硬化の早期指標となるintima-media thickness(IMT)は,放射線治療後1年以内でも増大することがあり7),また照射後早期から頚動脈狭窄症が症候化する例もある.このような照射後早期に進行する頚動脈狭窄症に関する研究は限られており,本研究では,放射線治療後早期に進行する頚動脈狭窄症の特徴を明らかにすることを目的とした.

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Ⅰ.緒言

 急性脳主幹動脈閉塞におけるmechanical thrombectomy(MT)は,近年,複数のrandomized control trial(RCT)により内科的治療単独に対する優位性が証明されている8).しかし,M2 segment of middle cerebral artery(以下,M2)閉塞のみに限定すると,MTの有効性は未だ明らかではなく2),治療適応の慎重な検討が必要である.M2閉塞のMTではさまざまな問題点があり,その主なものとして,①解剖学的な血管の重なりにより閉塞部位の同定が困難な場合がある,②血栓が遠位に飛散した場合のMTの追加は極めて困難である,③デバイスによる血管への侵襲が危惧される,が挙げられる.

 近年,stent retriever(SR)とaspiration device(AD)を組み合わせたさまざまなtechniqueも考案され,良好な治療成績が報告されている9,11-14).また解剖学的に口径の小さいM2でSRを展開する際に問題となる血管への侵襲を軽減する目的で,SRを部分展開する工夫も考案されている10).われわれは,急性M2閉塞に対し閉塞部位でのステント展開を必要最小限度(half-stent)にして,確実に血栓を回収する(Penumbra-assist)ことを目的としたPenumbra-assisted half-stent thrombectomyを行ってきた.われわれの初期治療経験を報告するとともに,急性M2閉塞に関するMTの現状について文献的考察を行う.

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Ⅰ.はじめに

 Paroxysmal sympathetic hyperactivity(PSH)は,重症頭部外傷後や低酸素脳症後に,頻脈・高血圧・過呼吸・高体温・発汗などの交感神経の亢進症状と,ジストニアなどの過剰な筋緊張の亢進が発作性・断続的に持続する病態である11).上記以外の原因疾患として,脳卒中後に発症した症例もいくつか報告されているが稀である5,6,11).本邦では頭部外傷後や低酸素脳症,小児例の報告は散見されるが4,8,9,17),脳卒中領域においてはPSHの病態があまり認知されていないのが現状である.今回われわれは,脳出血の開頭手術後に発症したPSHの2症例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 今回われわれは,椎骨動脈起始部高度狭窄に併発した赤色血栓による,脳底動脈塞栓症を発症した症例を経験した.再塞栓を来し,カテーテルによって椎骨動脈起始部の血栓を摘出して血管形成術(ステント留置)を追加した.椎骨動脈起始部狭窄に併発した血栓をカテーテルで摘出した報告は渉猟し得なかったため,若干の文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 脳梗塞の病因の精査は治療方針決定のために重要である.近年,embolic stroke of undetermined sources(ESUS)の概念も提唱され,画像診断を含めた原因精査がより重要視されている.今回われわれは,腕頭動脈原性脳塞栓症の1例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 Segmental arterial mediolysis(SAM)は,1976年にSlavinらによって提唱された,動脈に発生する非炎症性・非動脈硬化性の稀な変性疾患である.SAMは主として,腹腔内の筋性動脈に分節性に中膜融解を来すことで動脈瘤を形成し,動脈瘤破裂による突然の腹腔内出血を生じる病態であり,頭蓋内動脈瘤の合併も報告されている20,21).今回われわれは,くも膜下出血後急性期に右胃大網動脈破裂による腹腔内出血からショック状態となり,予後不良となった症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

連載 日常診療に役立つ“頭部外傷”のminimum essence

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Ⅰ.はじめに

 高次脳機能障害(neuropsychological impairment,cognitive impairment,higher brain dysfunction)とは,脳損傷が原因で起こる神経心理,神経精神医学的症状のことで,もともと学術的には,責任病巣がはっきりとした巣症状としての失語,失行,失認,地誌的障害,視空間認知障害などを指す言葉であり,脳梗塞や脳出血などに伴う大脳皮質の局所的損傷がその原因として一般的であった.近年,救急医療の発展,進歩により重症脳損傷患者が救命され,社会復帰する機会が増加している.その中で,身体障害は軽いが,「言われたことをすぐ忘れる」「同じ作業が長く続かない」「誰かが指示して促さないと何もできない」「突然人が変わったかのように怒る,暴力をふるう」といった障害を後遺する人たちが存在することが知られ始めた.

 そこで厚生労働省は,2001年から5年間の計画で高次脳機能障害支援モデル事業を実施し,事例収集と分析を行った結果,記憶障害,注意障害,遂行機能障害,社会的行動障害などの認知障害を主たる要因として,日常活動および社会活動への適応に困難を有する一群が存在することが明らかとなった27).そして,彼らを「高次脳機能障害患者」と呼び,障害者として行政支援の対象とすることで,自立と社会参加へ向けた包括的な取り組みが開始された.この「新しい高次脳機能障害」は,主に前頭葉を中心とした広汎な脳損傷を原因として生ずるものであり,交通事故による脳損傷やくも膜下出血などのびまん性脳損傷が原因となることが多い.近年ではこれらの症状に対して注目が集まり,単に「高次脳機能障害」という時には,失語や失行などよりも,むしろこれらの認知機能障害を指すことが多くなっている.本稿では,頭部外傷を原因とする高次脳機能障害の特徴や,日常診療における診断と治療について概説する.

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目次

欧文目次

「読者からの手紙」募集

お知らせ

略語および度量衡単位について

次号予告

編集後記 新井 一
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 本号の「扉」には,山形 専先生の「これからの若者の生き方を考える—VUCA時代をどう乗り越えるか—」と題する原稿が寄せられている.VUCA,すなわちVolatility(激動),Uncertainty(不確実),Complexity(複雑),Ambiguity(不透明)の時代を迎え,旧来の伝統的ともいえる概念は瞬時のうちに新たなものに置き換わる可能性が生じてきた.人工知能(AI),ロボットの出現によって,医療・医学ばかりでなく社会全体に大きな変革が起ころうとしているが,これが人の生き方にまで大きな影響を及ぼすのは,ある意味必然といえる.原子力の出現によりもたらされた第3次産業革命であるが,今はまさにAI,ロボットなどが主役の第4次産業革命の時代と言えよう.この時代にわれわれ脳神経外科医は何をなすべきなのか,技術の進歩とそれに伴う人々の意識の変化に応じて,脳神経外科の診療,研究,教育も変わっていく必要がある.ただ一方で,変えることなく次の世代に伝えなくてはならないこともあるはずである.若干沈鬱な気持ちにもなったが,このような問題を考えさせられる「扉」であった.

 吾郷哲朗先生による総説「脳血管障害外来患者の診療に役立つ高血圧症の管理」は,内科医の立場から脳血管障害患者の血圧管理について有用な情報を示してくれている.まさに,明日の臨床に役立つ読者必読の総説といえる.また,本号から「脳神経外科コントロバーシー2019」が掲載されることになった.今回は,てんかん外科,脳深部刺激,乳児期水頭症,くも膜囊胞に関するコントロバーシーを,それぞれのエキスパートの先生にまとめていただいた.今後,他の領域や疾患について3回にわたって連載予定である.本企画は,専門医試験前の若い先生にも有用であるが,年長の脳神経外科医にとっても,自分の専門外の領域で,今,何がコントロバーシーなのかを知ることができるよい機会を提供するものと思われる.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
47巻1号 (2019年1月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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