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Ⅰ.はじめに
高次脳機能障害(neuropsychological impairment,cognitive impairment,higher brain dysfunction)とは,脳損傷が原因で起こる神経心理,神経精神医学的症状のことで,もともと学術的には,責任病巣がはっきりとした巣症状としての失語,失行,失認,地誌的障害,視空間認知障害などを指す言葉であり,脳梗塞や脳出血などに伴う大脳皮質の局所的損傷がその原因として一般的であった.近年,救急医療の発展,進歩により重症脳損傷患者が救命され,社会復帰する機会が増加している.その中で,身体障害は軽いが,「言われたことをすぐ忘れる」「同じ作業が長く続かない」「誰かが指示して促さないと何もできない」「突然人が変わったかのように怒る,暴力をふるう」といった障害を後遺する人たちが存在することが知られ始めた.
そこで厚生労働省は,2001年から5年間の計画で高次脳機能障害支援モデル事業を実施し,事例収集と分析を行った結果,記憶障害,注意障害,遂行機能障害,社会的行動障害などの認知障害を主たる要因として,日常活動および社会活動への適応に困難を有する一群が存在することが明らかとなった27).そして,彼らを「高次脳機能障害患者」と呼び,障害者として行政支援の対象とすることで,自立と社会参加へ向けた包括的な取り組みが開始された.この「新しい高次脳機能障害」は,主に前頭葉を中心とした広汎な脳損傷を原因として生ずるものであり,交通事故による脳損傷やくも膜下出血などのびまん性脳損傷が原因となることが多い.近年ではこれらの症状に対して注目が集まり,単に「高次脳機能障害」という時には,失語や失行などよりも,むしろこれらの認知機能障害を指すことが多くなっている.本稿では,頭部外傷を原因とする高次脳機能障害の特徴や,日常診療における診断と治療について概説する.
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