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いつの時代でもそうなのかもしれないが,それにしても今日の社会情勢の変化するスピードは速すぎる.今後,変化はさらに加速しながら進んで行くことになり,それに伴って若い人たちの考え方,生き方は確実に変化してきている.数年前から現代は“VUCA”時代だと言われている.世の中の状況はVolatility(激動),Uncertainty(不確実),Complexity(複雑),Ambiguity(不透明)のようである.今日の日本の,また世界の情勢を見れば,むべなるかなと思う.当然,医療の世界も変化し目覚ましい進歩をとげており,人の寿命の延長もとどまるところをしらないようである.今の十代の人たちの50%は,100歳以上まで生きる時代に来ている.彼らはきっと普通に80歳ぐらいまで働くことになるのであろう.同時に,現代は私が十代だった50年前とは比較にならないほど大量の知識・情報に囲まれ,グローバル化,IT化が進み,AI,ロボットの活躍し始めている時代である.このまま行くと11年後の2030年には,AIにより労働力人口は半減して人口の25%となり(現在の労働力人口は6,500万人で全人口の50%である),2045年にはさらにその半分の12%になるという説もある.時間の流れはますます早くなり,これまでの10年は5年あるいは3年で経過し,これまでの考え方や生き方は到底役に立たなくなる.一方で人は長寿となり,人生設計は長く,そして複雑になり,当然社会のあり方も変わってゆく.人生は従来の教育・仕事・引退の3ステージ設計から,4から5ステージ設計へと変化することを余儀なくされる1).若い人たちはこれをどう乗り越えてゆくのであろうか.ヒントはありそうだが容易ではない.日本の社会もhostageシステム(1つの組織に生涯勤務し,若い時の稼ぎは年を重ねてから還元される従来の日本の一般組織のあり方)からpay for performanceシステムに変化してゆく.これもまた,ある意味厳しい世界である.
今の若者たちはこのような時代の流れを敏感に嗅ぎとり,それに調和した生き方を模索しようとしているのではないだろうか.一方でわれわれは,このような状況を,ある意味これまでの自分たちの育ってきた枠組みの中で判断しているのではないだろうか.6年ほど前,当院は麻酔科医師が大量に退職し,さらに5年ほど前には初期研修医の採用に大きな不足を来し,危機的な状況に陥った.われわれはそれまで若者が何を求めてどう行動しているか,気づいていなかったのである.
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