Pharma Medica 38巻5号 (2020年5月)

特集 CKDの病態理解と新規治療法開発の現況

特集にあたって 柏原 直樹
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腎臓病の病態理解を深化させ,新規治療法の開発につなげ,腎臓病診療の進歩に貢献する。これが腎臓病学の中核をなすことに疑問の余地はないだろう。日本腎臓学会は諸外国の腎臓学会に先行して設立された。先駆者の慧眼に改めて敬意を表したい。爾来,多くの著名な研究者を輩出し,日本各地に堅牢な研究基盤が構築された。本特集号では,現在の日本の腎臓学を牽引する研究者にその最先端成果をとりまとめていただいた。腎臓研究のフロンティアを一望いただけることと思う。

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古典的な糖尿病性腎症の病期分類は,1型糖尿病による腎症の経過をもとに策定されており,尿中アルブミンが正常範囲である腎症前期(第1期)から微量アルブミン尿が陽性となる早期腎症期(第2期)を経てアルブミン尿が顕性化する顕性腎症期(第3期),蛋白尿がネフローゼレベルへと増加しつつ血清クレアチニン値が上昇する腎不全期(第4期)と経過し,腎代替療法を導入されると透析期(第5期)に到達する。従来より2型糖尿病では必ずしもこのような典型的な経過をたどらない症例が知られており,アルブミン尿が顕性化しないまま血清クレアチニン値が上昇したり,糖尿病網膜症が軽微なまま腎症が進展するような非典型的な症例を経験することがある。しかし2000年頃から,アルブミン尿が顕性化しないまま血清クレアチニン値が上昇する2型糖尿病患者が増えてきた。これまで典型的な臨床的特徴を示す場合に限り,組織学的な根拠がなくとも糖尿病性腎症という診断が許容されてきたが,非典型的な経過を示す糖尿病患者の腎障害を糖尿病性腎症と呼ぶことに違和感を感じる一般医家が増えていった。「KEY WORDS」アルブミン尿,レニン・アンジオテンシン系阻害薬,加齢,集学的治療,低酸素

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加齢や生活習慣病とともに腎機能は低下するため,慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)患者は増加傾向にある。CKDの進行および発症をいかに予防し進行を抑制するかが,患者および医療費の観点から重要な課題である。近年,人工知能(artificial intelligence:AI)や情報通信技術(information and communication technology:ICT)が発達したことにより,CKDの病態解明や治療にこれらの技術が取り入れられるようになってきた。本稿では,データサイエンスを用いた腎臓病研究について概説する。「KEY WORDS」慢性腎臓病,人工知能,ICT,ビッグデータ,機械学習

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慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)は,最新の統計調査では全国で1,300万人存在しており,わが国の高齢人口は今後も増え続け,その患者数はさらに増加をたどることが予想されている。そのなかで末期腎不全となり,血液透析や腹膜透析および腎移植などの腎代替療法を必要とする患者数は33万人を超え,総医療費の40兆円のうち1.5兆円が腎代替療法に投入されている。こうした現状を鑑みると,CKDの進行を食い留める新たな治療法を見つけることは非常に重要な課題である。CKDは原疾患が何であっても,ある一定以上腎不全が進行すると,共通の経過をたどって,末期腎不全になることが知られており,CKDにはfinal common pathwayがあると考えられている。「KEY WORDS」hypoxia-inducible factor(HIF),低酸素,腎線維化,エピジェネティクス

腎線維化の分子機序 萩原 広一郎
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線維化は全身臓器において組織障害に随伴して認められる共通した病理所見であり,腎臓においても基礎疾患の種類を問わず障害後には線維化が認められ,その重症度が腎予後と相関することが示されている。腎線維化は主に障害に応答した線維芽細胞がα-smooth muscle actin(SMA)陽性myofibroblastへと形質転換し,大量の細胞外マトリックスを産生しながら盛んに増殖することで進展する。この形質転換に際して,腎線維芽細胞は造血ホルモンであるエリスロポエチンの産生能を失い,また毛細血管の正常な組織構築を保つことができなくなることで,腎性貧血および毛細血管密度減少という2つの慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の代表的な合併症をも引き起こし,複合的に腎臓病を進展させることも明らかにされている。「KEY WORDS」線維化,線維芽細胞,腎性貧血,三次リンパ組織

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1988年に筆者が倉敷中央病院で内科研修をしたとき,腎臓内科部長であった福島正樹先生から「柴田腎臓内科学」を読むように勧められた。「柴田腎臓内科学」には実験腎炎の研究内容が書かれており,ネフリトジェノサイドが言及されていた。ネフリトジェノサイドは3つのブドウ糖がペプチドに結合するグリコペプチドである1)。基底膜から精製された内因性ネフロトキシンで1回の投与により進行性の腎炎を惹起し,柴田整一先生は内因性レクチンに結合すると考えていた(図1)1)。「KEY WORDS」糖鎖,尿レクチンアレイ,バイオマーカー,腎臓病

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真核生物は「自己の細胞質構成成分を隔離し,リソソームの酸性コンパートメント内で分解するシステム」として,オートファジー・リソソーム系を有している1)。オートファジーは飢餓時に強く誘導され,エネルギー産生や生存に必須な蛋白質合成のために,細胞内の蛋白質などを非特異的に分解するが,変性蛋白や障害を受けた細胞内小器官を消化することにより細胞の恒常性維持にも関与する。虚血障害などの病態にも保護的作用を有する。本稿では慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の病態形成におけるオートファジーの機能について概説する。「KEY WORDS」マイトファジー,急性尿細管障害,Rubicon,脂質異常,高リン血症

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慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)は成人の8人に1人が発症する国民病である。CKDが進行すると,やがて透析療法が必要となる末期腎不全(end stage renal disease:ESRD)に至る。ESRDでは患者のQOLが著しく低下するだけでなく,医療費の面からもESRDへの進展抑制は喫緊の課題である。さらに,CKDはESRDの前段階というだけでなく,CKDの段階から健常人に比べて脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患の発生率も増加する。減塩やたんぱく質制限といった食事療法や降圧薬による血圧管理がCKD治療の中心となっているが,依然としてESRDに至る例は多く,既存の治療に加えて新たな治療法の開発が求められている。近年,CKDの病態および進行に腸内細菌叢の関与が明らかになっており,腸管と腎臓の臓器連関として「腸腎連関」が注目されている。本稿では,腸腎連関に着目したCKDの新規治療法の可能性について述べる。「KEY WORDS」腸内細菌叢,慢性腎臓病,尿毒素,糖尿病性腎臓病,フェニル硫酸

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腎臓は体液の恒常性維持に不可欠な臓器であるとともに,糖新生を介して全身の代謝恒常性を維持する臓器でもある。近年腎臓の栄養代謝に関わる基礎的知見が蓄積し,代謝臓器としての腎臓の側面,そしてその異常と腎臓病との関連に注目が集まっている。本稿では近年の腎栄養代謝領域における知見を代謝基質ごとに概説するとともに,慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の病態解明,新規治療につながる研究成果を紹介する。「KEY WORDS」慢性腎臓病,SGLT2阻害薬,脂肪酸代謝,アミノ酸代謝

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最近,トランスレーショナル研究の限界と,リバーストランスレーショナル研究(われわれはリバトラと呼んでいる)の重要性が認識されている(図1)。トランスレーショナル研究は,基礎研究での成果を,臨床に応用する研究だが,スムーズに臨床応用につながっているとは限らない。なぜなら,基礎研究の成果が臨床のどのような状況に応用できるか予想するのは意外と難しいからである。神経の研究を進めるために,ある生物学的分野や技術について研究していたはずが,なぜか腎臓の研究になってしまった,という話をよく聞く。一方でリバトラは,臨床的視点を重視して,必要な基礎研究手法を選択し活用することで,臨床上の問題を解決する研究である。「KEY WORDS」リバーストランスレーショナル研究,D-アミノ酸,慢性腎臓病(CKD),早期スクリーニング,予後,疾患活動性,難病情報解析

Keap1/Nrf-2とinflammasome活性化 長洲 一
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本稿では慢性炎症の主軸の1つであるinflammasomeとその制御に関わる可能性があるKeap1-Nrf2経路について述べる。近年,自然免疫システムの1つであるinflammasomeがさまざまな病態により引き起こされる炎症の遷延機序として重要であることが判明してきた。Inflammasomeは感染性・非感染性シグナルのパターン認識受容体NOD-like receptor(NLRP)-3 apoptosis-associated speck-like protein containing a CARD(ASC)などからなる細胞内蛋白複合体である。Inflammasome活性化によりprocaspase-1がcaspase-1に活性化され,前駆体からIL-1βやIL-18に転換し,炎症反応の誘導や進展に重要な役割を果たす。「KEY WORDS」慢性炎症,ミトコンドリア,活性酸素,マクロファージ

連載 一目でわかるクリニカルレシピ

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慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)とは、以下のいずれか、または両方が3ヵ月以上持続する場合に診断されます。1.腎障害を示唆する所見(検尿異常、画像異常、血液異常、腎病理組織異常など、特に0.15g/gCr以上の蛋白尿(30mg/gCr以上のアルブミン尿)の存在が重要)2.糸球体濾過量(GFR)が60mL/min/1.73m²未満現在、CKDが臨床診療で大きな問題となっているのは、CKDが末期腎不全(end-stage renal disease:ESRD)へと進行し、将来的に腎代替療法(透析療法や腎移植)を必要とすることや、心血管疾患の重要な発症リスク因子になっていることです。腎代替療法に至る原疾患の1位は糖尿病性腎症で、全体の約4割を占め、次いで慢性糸球体腎炎、腎硬化症の順です。

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わが国の糖尿病患者数は過去最高となっており,罹病期間の長さや血糖管理を目的としたエネルギー管理やたんぱく質管理を長年続けることにより,サルコペニアやフレイルの状態に陥り「褥瘡」が発生しやすくなる場合がある。特に,糖尿病患者の褥瘡発生要因については,「外的因子(湿潤,摩擦,ズレなど)」の影響を強く受けることになるが,むしろ,「内的因子(栄養不良,加齢,基礎疾患:糖尿病など)」が大きく影響していることが多い。糖尿病患者であっても,適切な栄養管理・栄養補給を行うことにより栄養状態が改善され,血糖管理面にも好影響を及ぼし,褥瘡治療にも有用であることを理解すべきである。

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目次

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基本情報

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Pharma Medica
38巻5号 (2020年5月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0289-5803 メディカルレビュー社

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