Pharma Medica 38巻4号 (2020年4月)

特集 花粉症の基礎・臨床Overview

特集にあたって 大久保 公裕
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スギ花粉症は増加している疾患である。馬場廣太郎・獨協医科大学名誉教授は全国の耳鼻咽喉科医とその家族について1998年と2008年に花粉症を含むアレルギー性鼻炎の調査を行った。1998年ではスギ花粉症は通年性アレルギー性鼻炎より頻度の低い16.2%であったが,2008年のスギ花粉症患者人口は日本全体の26.5%と10%以上も増加していた。2019年に奥田記念花粉症学等学術顕彰財団の助成を受けて,日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会の有病率調査委員会では馬場先生と同じ,全国の耳鼻咽喉科医とその家族についての調査を企画した。これに関して日本耳鼻咽喉科学会のご支援により名簿使用が許可され,実施に当たった。詳しい結果は日本耳鼻咽喉科学会会報に後日発表されるので,それに譲るが,やはり増加の傾向は止まっていないことが判明した。どのようにしてこの増加を止められるのか? 重症患者を減少させられるのか? など花粉症医療に対して求められることは数々存在している。スギ花粉抗原による感作が100%になる時代は来ないと思えるが,この小児での感作・発症の増加を真剣に考えないと,この有病率の増加に歯止めをかけることはできないかもしれない。

花粉飛散の科学 村山 貢司
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筆者が花粉情報を始めた1985年頃にはシーズンのスギ・ヒノキの花粉総数が2,000個(/㎠)を超えれば大飛散といわれていたが,各地の花粉数はその後急増し2019年春の時点では東京や名古屋の花粉数は10年平均値で5,000個を超えており,仙台や福岡でも4,500個前後になっている。この間スギ花粉症患者も急激に増加した。東京都の患者調査では1987年がおよそ10%であったが,1996年には23%,2006年には28%,2016年の調査では48%になっている。東京都心から40km圏内にはほとんどスギ林がないのに,なぜこのようにスギやヒノキの花粉が増加し,花粉症患者が増加したのであろうか。ここでは花粉増加の原因と花粉の飛散高度および飛散距離について考えてみることにした。「KEY WORDS」スギ・ヒノキ林の面積,スギ・ヒノキの樹齢,花粉の飛散高度,花粉の飛散距離

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ヒノキ花粉 (Chamaecyparis obtuse) は春季飛散花粉の1つであり,通常はスギ花粉 (Cryptomeria japonica) の飛散後,4月上~中旬をピークとして飛散する。スギ花粉症患者の多くはスギ花粉の飛散が終了した後もヒノキ花粉による症状が続くため,現在ではスギ・ヒノキ花粉症 (Japanese cedar/cypress pollinosis:JCCP) とも呼ばれる。本稿では,スギ・ヒノキ花粉症におけるヒノキ花粉飛散の意義について概説する。「KEY WORDS」花粉症,ヒノキ花粉,免疫療法,Cha o 3,IgE

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花粉症は種々の花粉によるアレルギー性鼻炎であり,その代表としてはスギ花粉症が最も有名である。スギは第二次世界大戦後からの復興の目的で1950年前後より全国各地の広い面積に植林され,林齢30年以上のスギ林が増加した1970年代頃からスギ花粉症が増加したことが指摘されている1)。馬場らが2008年に行った全国疫学調査では,スギ花粉症の有病率は全国平均で26.5%に達していることが報告され,社会に衝撃を与えたことは記憶に新しい2)。この調査では県別にスギ花粉症とスギ以外の花粉症の有病率も報告されているが,その土地の樹木や草本の植生により花粉症の疫学も異なるのは周知の事実である。たとえば,スギの植林がほとんどない沖縄県や,スギの植林が道南などの一部に限定されている北海道などでは,スギ花粉症の有病率は極めて低率であるが,北海道ではスギにかわりシラカンバ,カモガヤ,ヨモギなどスギ以外の花粉症が多いことも指摘されている3)。一方,東北地方は青森県から福島県まで南北に長く,東北6県合計の面積は全国の約3割を占め,森林面積も非常に広く秋田スギで有名な秋田県を筆頭にスギの人工林が多い地域であるが,必ずしも東北6県のスギ花粉症の有病率は決して高いものではない。本稿では,東北地方におけるこのようなスギ花粉症における矛盾と,ヒノキ花粉症やイネ科花粉症,キク科花粉症などスギ以外の花粉症についても述べる。「KEY WORDS」花粉症,スギ,ヒノキ,イネ科,キク科

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アレルギー性鼻炎・花粉症の治療の原則は,抗原除去・回避,薬物療法,アレルゲン免疫療法,手術療法の4つがある。近年,薬物療法では複数の抗ヒスタミン薬が新しく上市された。また舌下免疫療法ではスギ舌下錠が市販され舌下液よりも高い有効性を示し,スギ舌下錠とダニ舌下錠の併用も安全性の高い治療法であることが臨床研究で確かめられた。2019年12月にはアレルギー性鼻炎領域では世界初のバイオ製剤(抗IgE抗体療法)が重症花粉症に対して適応追加された。抗ヒスタミン薬や舌下免疫療法は軽症から最重症までの患者に用いられ,抗IgE抗体療法は重症以上のスギ花粉症に対して使用できる。即効性という観点では抗ヒスタミン薬や抗IgE抗体療法を,じっくりと治療できるのであれば舌下免疫療法を選択する。「KEY WORDS」第二世代抗ヒスタミン薬,鼻噴霧用ステロイド薬,貼付薬,舌下免疫療法,抗IgE抗体療法

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眼科では「Ⅰ型アレルギーが関与する結膜の炎症性疾患で何らかの自他覚症状を伴うもの」を総称してアレルギー性結膜疾患と呼称する。花粉性結膜炎はアレルギー性結膜疾患の一病型である。アレルギー性結膜疾患に関しては,1993~1995年にかけて日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班による疫学調査が行われた。全国28施設における3年間の定点調査であり,小児の12.2%,成人の14.8%にアレルギー性結膜疾患を有すると推定された1)。アレルギー性結膜疾患のなかで,結膜に増殖性変化がみられずアトピー性皮膚炎を合併しないものがアレルギー性結膜炎である。アレルギー性結膜炎は感作される抗原や症状の発現時期により通年性と季節性に分類される。季節性アレルギー性結膜炎の代表が花粉性結膜炎である。2016年に行われた東京都による調査では東京都内の花粉症有病率は48.8%と,1994年の同調査における19.4%に対し倍増しており,花粉症患者の増加に伴い花粉性結膜炎の患者数も増加していることが予想される2)。2017年に全国の眼科医とその家族を対象とした花粉症をはじめとしたアレルギー性結膜疾患の有病率についての調査が行われ,約4割の者が季節性アレルギー性結膜炎と返答した3)。このように,花粉性結膜炎の患者数は非常に多く,QOLに多大な影響を与えることからも,適切な治療が必要である。「KEY WORDS」花粉症,結膜炎,鑑別診断,抗アレルギー点眼薬

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花粉症は症候群であり,花粉抗原により全身のアレルギー反応が出現する1)。症状の主体はアレルギー性鼻炎・結膜炎であるが,気道,皮膚,全身症状などが出現する。大久保らは2006年花粉症シーズンにおける鼻眼以外の症状を街頭アンケートによって調査した1)。全体の200症例では,「口が乾く」,「皮膚がかゆい」が多く,男女差でみると女性では「皮膚がかゆい」が男性より多かった。また,花粉症の症状が重い群ではより女性に皮膚の痒みの症状が有意に多く認められた。以上より,花粉症では鼻眼以外に瘙痒などの皮膚症状も,特に女性に多くみられることが明らかになった。本稿ではスギ花粉皮膚炎を中心に,その概念,皮疹の特徴,臨床病型,検査,鑑別疾患,病態,治療について概説する。また,その他の花粉皮膚炎として,カモガヤ,ブタクサ,ヨモギによる花粉皮膚炎にも触れる。「KEY WORDS」スギ花粉皮膚炎,アトピー性皮膚炎,浮腫性紅斑,スギスクラッチパッチテスト,ステロイド外用

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健康に好影響を及ぼす微生物の研究は,1901年にロシアの細菌学者Metchnikoff1)が,「コーカサス地方の住民に長寿が多いのはヨーグルトの日常的な摂取が腸内細菌叢に好影響を及ぼしているため」とする“ヨーグルト不老長寿説”を提唱したことが発端である。1989年にはStrachan2)が「少子化や衛生環境の改善に伴う乳幼児期の感染症リスクの低下が,近年のアレルギー疾患の一因である」という“衛生仮説 (hygiene hypothesis)”を提唱し,免疫系の発達や機能維持に環境中の微生物が重要な役割を果たしていることが明らかになってきた。このような理由から,近年,乳酸菌などの微生物とヒトの健康の関係についての関心が高まっている。食品として摂取する健康の維持や増進に有用な微生物は,プロバイオティクス (probiotics:PB) という名称で呼ばれ,最近では健康食品ブームにも乗って広く利用されている。本稿では,花粉症,特にスギ花粉症とPBに関する最近の知見について解説する。「KEY WORDS」スギ花粉症,プロバイオティクス,プレバイオティクス,腸内細菌叢,健康食品

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アレルギー性鼻炎はIgEを介したⅠ型アレルギー性疾患であり,マスト細胞を中心に好酸球,リンパ球などの炎症細胞が病態に関与すると考えられている1)。発作性反復性のくしゃみ,水様性鼻汁,鼻閉を3主徴とする1)。アレルギー性鼻炎は通年性と季節性に分類され,後者のほとんどは花粉症である1)。2008年の調査によれば花粉症の有病率は10年間で19.6%から29.8%に増加しており,特にスギ花粉症の増加が大きく寄与している1)2)。東京都の報告では,都内のスギ花粉症の推定有病率は2017年の時点で45.6%であり,現在もなおスギ花粉症は増加していることが示唆される3)。スギ花粉症の有病率を年齢層別にみると0~4歳で1.1%,5~9歳で13.7%,10~19歳で31.4%と,学童期以降に大きく増加し,50歳代までは30%以上の有病率を示す1)2)。アレルギー性鼻炎・スギ花粉症の低年齢化傾向も明らかであり1)2),今後はわれわれ小児科医のアレルギー性鼻炎診療機会はますます増えていくことが予想される。「KEY WORDS」アレルギー性鼻炎,花粉症,Ⅰ型アレルギー,アレルゲン免疫療法

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バイオマーカー(生物学的マーカー)とは,体の血液など液性成分や組織などから採取して得られる蛋白質や遺伝子などの生体物質により,疾患の存在や,重症度,治療効果などを反映するものである。バイオマーカーの条件として,客観性,簡便性,再現性などが求められる。花粉症・アレルギー性鼻炎において求められるバイオマーカーは,診断や,病状・重症度判定,治療効果や病状コントロールの判定,新規薬剤の効果判定などが可能になるものが考えられる。本稿において,花粉症を含めたアレルギー性鼻炎のバイオマーカーについて概説する。「KEY WORDS」バイオマーカー,花粉症,アレルギー性鼻炎,診断,重症度

花粉症治療の未来 山田 武千代
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「免疫アレルギー疾患研究10か年戦略」は「免疫アレルギー疾患領域における研究の現状を正確に把握し,疫学調査,基礎病態解明,治療開発,臨床研究等を長期的かつ戦略的に推進すること」を目的としている。国民の半数が罹患しているアレルギー性鼻炎の患者数は近年増加傾向にあり,国民病といわれるスギ花粉症1)は重大な問題となっており,「免疫アレルギー疾患研究10か年戦略」の本態解明と花粉症治療の未来について述べる。「KEY WORDS」花粉症,免疫アレルギー疾患,10か年戦略,本態解明

連載 Medical Scope

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CKD患者の主要な死因は心血管疾患であり,そのリスク評価は非常に重要である。一般住民や心血管疾患患者においてその有用性が確立されているBNPや心筋トロポニンTといったバイオマーカーは,CKD患者においても心血管リスクや予後不良を反映することが示されており,最近ではリン代謝の調節因子であるFGF23についてもCKD患者のバイオマーカーとしてその有用性が報告されるようになってきた。また,CKDに高率に合併するサルコペニアも心血管疾患との関連が示されており,筆者らはサルコペニアのスクリーニング法を心血管リスク評価へ応用することを考え,最近その有効性を報告した。本稿ではCKD患者における心血管リスク評価法を概説する。

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ベーチェット病は原因不明の全身性炎症疾患であり,遺伝的素因を有する個体に何らかの環境要因が関与することにより発症すると考えられている。最も強固な遺伝要因がHLA-B*51であることから,MHCクラスⅠを中心とする獲得免疫異常が注目されてきた。一方,臨床では発作性にみられる好中球優位の炎症など自己炎症疾患としての側面も併せ持つ。それを裏付けるように,自然免疫に関わる感受性遺伝子も数多く同定されており,さまざまな免疫系が複雑に絡まり病態を構築していることが明らかとなった。また,環境要因として病原体の存在が考えられているが,生体防御や口腔・腸管細菌叢に関する知見も得られてきており環境要因の解明も期待される。

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Pharma Medica
38巻4号 (2020年4月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0289-5803 メディカルレビュー社

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