臨床皮膚科 44巻13号 (1990年12月)

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患 者 42歳,男性

初 診 昭和63年8月8日

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 最近6年半の間に当科で経験され,臨床・組織学的に表皮様嚢腫(EC)と診断された256例271個の組織所見を検討したところ,稀な所見の合併が数例にみられた.症例1,24歳男,左下腿のECの組織の一部に毛母腫と内毛根鞘に一致する所見あり.症例2,52歳男,右頬のECの組織の一部にfocal acantholytic dyskeratosisあり.症例3,64歳男,左頬,症例4,41歳男,左鼻根部のECの壁の一部にtumorof follicular infundibulumに類似する所見あり,症例5,35歳女,左側頭,症例6,53歳男,左頬のECの内腔にメラニン色素を有する毛幹と多数の同心円状角化物あり.この他,内腔に毛幹を認めた2例,壁の一部に澄明細胞をみた1例,壁再生像を示した1例などがあった.

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 症例は1歳1カ月,男児.妊娠15週時,母親が水痘に罹患し,抗生剤(薬剤名は不明)を内服したという.出生時に左手合指症と左前腕部のびらん・潰瘍,痂皮および左眼瞼下垂を指摘された.左前腕部のびらん・潰瘍面は,速やかに上皮化し,瘢痕となった.精査の結果,本症例では,上記のごとく,(a)先天性皮膚欠損症が存在するほかに,同側の①短合指症と②大胸筋欠損が存在することから(b)Poland症候群,そして①縮瞳・眼球陥没を伴わない眼瞼下垂に加えて,②ヨード澱粉反応と局所発汗量測定にて,分節性の発汗低下が存在するところから(c)Horner症候群不全型という多彩な疾患ないし奇形が合併していることが判明した.先天性皮膚欠損症にはしばしば奇形を合併するが,Poland症候群あるいはHorner症候群とを合併したとの報告例はかつてなく,稀有なる症例と思われる.そこで,その詳細を報告するとともに,本症のごとき合併症相互の因果関係の考察を試みた.

研究ノート・12

マウスアレルギー 宮地 良樹
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 マウスを使った実験に従事したこの10年ほどの間に,私はたっぷりマウスに感作されたとみえて,マウスを扱うとくしゃみ,流涙,鼻漏に悩まされる.マスクを5枚ほど重ね,これに以前はゴーグルを着用して動物実験室に入らないと,仕事にならないほどの発作が起こる.今では,インタールの点眼で多少ましになったが,マウスの実験は今だにゆううつである.皮肉にも,私がマウスを扱うきっかけとなったのは,光アレルギー性接触皮膚炎の実験だった.それまで,光接触過敏症の実験にはモルモットが用いられていたために,免疫学的な実験が不可能で,T cell mediatedかどうかもevidenceがなかった.そこで,今は浜松医科大学へ行かれた滝川先生と,それぞれの研究時間の半分ずつを出し合って一緒に実験をやろうということになった.結果は惨憺たるもので,1年を経ても失敗続きで,何も生まれなかった.丁度その頃,この領域の第一人者だったDr.Harberが教室を訪れたので,二人で今やっている実験を熱っぽく説明した.うなずきながら聞き入っていた彼が最後に言ったのは一言,“For—get it!”だった.彼もマウスでやって失敗したから無理だという話だった.これで実験は絶望的になり,もう止めようという話も出たが,ここまでやったのだからもうしばらくやろうと続けるうちに,仕事が軌道に乗り出した.第一報がpublishされたのは,それからさらに1年後の1982年だったが,驚いたことに,同じjour—nalの同じ号に,アメリカのグループが,やはりマウスを用いた光アレルギーの実験モデルを発表していたのである.あの時,もし断念していたら,さぞ口惜しい思いをしていただろうと思うと苦労が報われたようでホッと胸をなでおろした.

 当時の研究室は平屋の古い建物で,夜,実験が終わったあと,研究室の鍵を締め,冴え冴えとした蒼い月を仰ぎながら,その傍の木の根元に二人並んでオシッコをして帰るのが通例で,何故かそこだけ草が生えなかった.今では,新しい建物が立ち,思い出の木も無くなってしまったので,このマウスアレルギーだけが,あの頃の名残りとなってしまった.だから,うらめしくもなつかしいくしゃみに耐えながら,今でもマウスの実験を続けている.

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 46歳,男.両側頬部,項部,上背部,腋窩部,鼠径部,膝窩部に米粒大までの毛孔一致性丘疹が散在,多発,組織学的にfibrofolliculomaと診断した.腋窩,上背部にはアクロコルドンを,前腕屈側,胸部にはtrichodiscomaを合併していることよりBirt-Hogg-Dubé症候群の散発例と診断した.本症候群はきわめて稀な疾患であり,自験例が本邦第1例であると思われる.ルテニウムレッド染色を施行したところ,毛嚢周囲の線維化は幼弱な膠原線維と酸性ムコ多糖の沈着から成ることが示唆された.

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 84歳,男.頭部,顔面,手背等の日光露出部に限局する浮腫性紅斑が出現.初診時minimal erythema dose(MED)の著明な低下あり.光線過敏型薬疹を疑い初診時内服中であった3剤を中止した後,光貼布試験を行ったところ,メキタジンのみに少量のUVA(2.0J/cm2)にて陽性.皮疹部および光貼布試験陽性部の病理組織像は,どちらも湿疹型の反応を呈した.内服中止により皮疹とMEDの改善が見られた.本症例は従来よりフェノチアジン誘導体で指摘されている光毒性反応の他に光アレルギー性反応の関与も疑われ,若干の文献的考察を加えた.

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 スプロフェン軟膏による光接触皮膚炎の1例を報告した.症例は66歳,男性.顔面の皮疹に対して非ステロイド系抗炎症外用剤スプロフェン軟膏を使用中,紅斑が増悪した.接触皮膚炎,光接触皮膚炎を疑って外用を中止し,日光を避けるようにさせたところ皮疹は改善傾向を示した.スプロフェン貼布試験は陰性,光貼布試験は1%(as is),0.1%,0.01%共に陽性.その紅斑反応が試験施行後16日目でもなお持続していたことから,その発症機序に光アレルギー反応が考えられた.

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 Chronic photosensitivity dermatitisの1例を報告した.症例は55歳,男性.露光部位に浸潤性紅斑と苔癬化局面を認め,組織学的に真皮の血管周囲性リンパ球性細胞浸潤を示した.初診時にはUVA,UVBともに正常反応を示したが,初診1カ月後にはUVAのみに対して反応性の亢進を認めた.さらにUVAの反復照射後に丘疹を伴う浮腫性紅斑を生じ,組織学的に表皮の海綿状態と真皮の血管周囲性細胞浸潤を認めた.UVBの反復照射では臨床的に浮腫性紅斑を,組織学的にわずかな海綿状態と真皮の血管周囲性細胞浸潤を認めた.

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 病型診断がきわめて困難な魚鱗癬母子例を報告した.その遺伝形式は,常染色体優性遺伝を疑わせたが,臨床症状は男児2人では伴性遺伝性魚鱗癬あるいは常染色体優性葉状魚鱗癬に,また母親のそれは尋常性魚鱗癬に類似した.診断確定の一助として,角層のsteroid sulfatase活性を測定したところ,酵素活性は兄弟にて欠損,母親にて陽性となった.したがって,兄弟では伴性遺伝性魚鱗癬,母親では尋常性魚鱗癬と母子の魚鱗癬にheterogeneityがあることが判明した.

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 47歳,女性.臀部,大腿部に鱗屑性紅斑が出現し経過中に膿疱を認め,組織学的にKogojの海綿状膿疱が見られ,膿疱性乾癬環状型と診断した.皮疹はDDSに反応せず,エトレチネートによく反応した.

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 49歳女,20年間織物を職業とし,外傷の既往なく,両下腿下部左右対称に生じた筋ヘルニアの1例を報告した.立位で両下腿に皮膚腫瘤が出現し,臥位で消失する.経過中,左足背の知覚異常も認められた.生検にて浅腓骨神経の足背皮神経への分岐部で筋膜の欠損部より短腓骨筋の露出が認められた.このように,筋膜腔内の神経や血管が筋膜を貫通して皮下組織に出るところでは,解剖学的に筋膜が弱くなるため,ヘルニアを起こしやすく,左右対称に認められることが多い.自験例のような非外傷性ヘルニアは外傷性のものより頻度が多く,腫瘤が小さく,自覚症状が少ないため,日常診療上偶然に見つかることもあり,この疾患の諸臨床特徴の知識があれば容易に診断することができる.

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 生後2日の女児.出生時より全身にぶどう球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)様の潮紅を伴う水疱,糜爛を認めた.生後2週目頃より,稗粒腫と爪の変形が出現した.組織学的には表皮内水疱を呈し,表皮細胞の変性を認めた.電顕的にはtonofilamentsの凝集を伴う変性した基底細胞の一部が,水疱底にある基底板に付着していた.本症例では臨床的にはSSSSを思わせ,既報告例に比べ表皮細胞の変性が比較的上層にまで及んでいた.

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 15,6歳頃より発症した優性栄養障害型表皮水疱症(Cockayne-Touraine型)と考えられる68歳女性例を報告した.ニコチン酸トコフェロール,フェニトインおよびエトレチナートの全身療法は無効であり,プロピオン酸クロベタゾールの局所療法が奏効した.水疱の非好発部の健常皮膚ではanchoring fibrilの減少・消失に加えて,lamina lucidaおよびlamina densaの幅の狭小化が認められた.

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 出生時すでに両下腿と左手背に広範囲に及ぶ水疱を形成していた劣性栄養障害型表皮水疱症の男児例を報告した.家系内に同症なし.水疱はほぼ全身に出現し,瘢痕性局面を残しながら軽快する状態を繰り返している.経過観察中に,爪甲脱落,稗粒腫の形成,口腔内病変および足趾の強度の癒着変形を認めた.組織学的には表皮下水疱で,電顕的検索で真皮上層における膠原線維の変性像を認めた.本症に対する治療および今後発生が予想される合併症などにつき若干の考察を加えた.

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 77歳,女.膀胱癌に対し両側内腸骨動脈内に塩酸ドキソルビシン,フルオロウラシル,シスプラチンを投与され右臀部に難治性の潰瘍を形成した.潰瘍は右下臀動脈領域に一致し,潰瘍周囲および左臀部と両側会陰部に色素沈着を伴っていた.現病歴および臨床症状より抗癌剤の動脈内注入による皮膚壊死と診断した.組織学的に臀部潰瘍部および膀胱に様々な程度の動脈の変性とその支配領域の上皮組織の脱落,筋組織の空胞化,脂肪組織の壊死を認めた.抗癌剤動注に伴う皮膚壊死の成因について若干の考察を加えた.

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 43歳,男性.19歳時に外傷性脊髄損傷をきたし歩行不能となる.約7年前より,仙骨部に潰瘍性病変があり,増大してきた.初診時,直径15cmの巨大な腫瘍がみられたが,化学療法にて腫瘍を縮小させた後,全摘した.当初,血中SCC関連抗原は高値であったが,化学療法の奏効に伴い正常化した.全摘手術後3カ月で血中SCC関連抗原の再上昇を認め,精査の結果腫瘍の局所再発が明らかとなった.本例は,褥瘡を発生母地とした有棘細胞癌と考えられた.また,本例では病状の経過観察に血中SCC関連抗原が有用であった.

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 36歳,女性.初診,昭和63年9月22日.1歳頃からアロポー稽留性肢端皮膚炎にて様々な治療をうけていた.昭和61年頃左足底にくつずれ様の皮疹が出現し,昭和63年5月から急速に増大し,当院を受診した.初診時SCC関連抗原値は高値であった.悪性黒色腫と診断し切除した.SCC関連抗原値は手足の皮膚炎に対するステロイド剤外用治療により,腫瘍切除前に低下し,術後も著明な増減はなく,自験例におけるSCC関連抗原値の上昇は腫瘍性のものではなく,アロポー稽留性肢端皮膚炎に由来するものと断定した.SCC関連抗原は扁平上皮癌に特異性が高い腫瘍マーカーで,その臨床的価値は高い.しかし,皮膚良性疾患において,その値が高値を示すことが報告されており,SCC関連抗原値が高値を示した場合,皮膚疾患の有無についても十分注意することが必要である.

これすぽんでんす

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 本誌44巻10号(949-953頁)に掲載された,高橋・勝海,両氏の原著論文1)を興味深く読ませて頂きました.8歳,女児にみられたhair castsを,走査電顕を使って観察され,内毛根鞘細胞と外毛根鞘細胞を明確に示されたことに敬意を表明いたします.

 論文中で著者らは,hair castsは稀なものである,と述べておられますので,このことについて私見を述べさせていただきます.確かに従来の報告をみると,1例あるいは数例についての観察が多く,稀なもののような印象を受けます.われわれは,皮膚科患者173例(Ⅰ群:頭部に,単純性粃糠疹,尋常性乾癬などの病変を持つもの68例,Ⅱ群:湿疹・皮膚炎,蕁麻疹,真菌性疾患などがあるが頭部には病変を持たない者105例)および健康者35例(Ⅲ群)の,計208例について頭髪を調査いたしました2).その結果,Ⅰ群では27.9%に,Ⅱ群では20.0%に,III群でも25.7%にhair castsを見いだし,各群間に有意差は見られませんでした.全例を合わせて男女別に分けると,男は77例中7例(9.1%)に対し,女は131例中42例(32.1%)で,これは有意の差でした.

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 私どもの論文に対し,貴重な御意見ありがとうございました.考察の不十分さを御指摘いただいたものと自省しております.

 確かに,hair castsは日常診療中でも時に目にすることがあり,それほど稀な病態ではないと思われます.ただ論文中で述べましたことは,牽引やヘアースプレーの使用頻度の高さと比較した場合,発生は稀であり,それらにのみ原因を求めることはできないという趣旨でした.御報告のように軽症のhair castsの例を含めますと,発生率は低くはありませんが,本人や周囲の者に異常と認識される程度に大量のhair castsを有する例は少ないと思われます.

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基本情報

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臨床皮膚科
44巻13号 (1990年12月)
電子版ISSN:1882-1324 印刷版ISSN:0021-4973 医学書院

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