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I メンタルヘルスのプラットフォーム
現在,私たちは3つの事業を行っています。1つ目は,訪問診療を中心とした精神科クリニック,2つ目は,市民活動として専門家を含むボランティアが運営する町の中にある「暮らしの保健室」注1),3つ目は,支援者支援としてサロンや研修会を開いたりレンタルスペースを運営したりして心と社会の出会いを創るソーシャルワークを行う合同会社です。筆者らは,この3つの事業で,町の中にメンタルヘルスのプラットフォームを創っています(図)。
私たちはAssertive Community Treatment(以下,ACT)を実施していた精神科医と精神保健福祉士であり,活動の原点には精神科アウトリーチがあります。一般社団法人コミュニティメンタルヘルスアウトリーチ協会によれば,「アウトリーチ」は,リカバリー(recovery)の概念を理解し,訪問を中心に行う「地域生活中心のサービス」(community-based)であり,「その人のあり方を中心に据えた支援」(person-centered)であり,「その人やその人を取り巻く周囲の環境の長所,能力に焦点をあてた支援」(strength perspective)と定義されている注2)。このように精神科アウトリーチは,個別支援を中心に捉えながらもその周辺への働きかけも活動の視野に入れています。ACTの臨床経験から,心身のケアと暮らしは関係が深いと実感しており,働きかける対象の範囲は広く多様だと考えます。そのためフォーマルな関係機関だけでなく,インフォーマルな“周辺への働きかけ”に焦点を当てた活動もしています。
精神科アウトリーチという積極的に地域に出て活動する包括的な支援では,“届きにくい”に目を向ける必要があります。障害の有無にかかわらず“届きにくい”先が3つあると考えられます。1つ目は,専門家とのつながりです。専門家とつながらず症状や生活環境の悪化,困難を招いているケースがあります。2つ目は,安心して話をする体験です。利用する若者は,安心して自分自身の話をしたり聞いたりする機会が乏しく,メンタルヘルスの話題に対して自分事として関心が持てないからです。3つ目は,心に関する情報が届きにくいことです。心のことを知らないことが偏見につながり,メンタルヘルスへの抵抗感が生じます。また,若者にとって,バウンダリーやジェンダーについての知見を得ることもメンタルヘルスの向上につながります。そこで私たちは,自宅へ医療的な専門的サービスを届けるクリニック,対話を重視したケアと活躍の体験の場創り,メンタルヘルスに関係のあるソーシャルビジネスと,共同する機会創出という地域社会と,メンタルヘルスのプラットフォームをつなぐ複数の「ドア」を持つことで,“届きにくい”状況を解消するアプローチをしています。実際に若者が「暮らしの保健室」の利用から医療機関や福祉サービスにつながるケースがあり,外出困難で訪問診療を利用している方が「暮らしの保健室」に参加することもあります。また,地元の産婦人科医や弁護士と出会い,ユースクリニックを目指したイベントを開いたり,若者アフターケア相談センターの支援に関わるといった動きも始まりました。
これらをシームレスにつなぐための指標のひとつとして「メンタルヘルスのゼロ次予防」を掲げています。ゼロ次予防とは,疾患の直接的な原因だけでなく,「原因の原因」となる社会経済的・環境的条件の発生をあらかじめ防ぐための予防策です(Bonita et al., 2006)。近藤(2020)は,「暮らしているだけで健康になってしまう」ようなまちづくり・社会づくりとしての「ゼロ次予防」を提唱し,近年さまざまな公衆衛生の領域で取り入れられています。個人が行う予防では個人の健康に対する高いリテラシーが求められます。しかし,前述したように,心身のケアと暮らしは関係が深く,年齢などの個別の属性や能力に対して幅広い対応が必要で,まさに「暮らしているだけで健康になってしまう」ような仕掛けが求められています。

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