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Ⅰ はじめに
ギャンブル行動症は,持続的かつ反復的なギャンブル行動により,その人の日常生活や社会生活に重大な影響を生じている状態を指す(American Psychiatric Associations,2022)。日本においては,競馬,競輪,競艇,オートレースという公営競技と,宝くじ,スポーツ振興くじが法令により許可されており,それ以外にも,パチンコ,パチスロというギャンブル類似の「射幸心をそそるおそれのある遊技」が,風営法その他の規制のもとで行われているにもかかわらず,ギャンブル行動症に対する抜本的な対策は長らくなされてこなかった。しかし,2014年6月,安倍内閣が閣議決定した「成長戦略」において,カジノを中核とする統合型リゾート(IR)について,「関係省庁において検討をすすめる」と明記されたことにより,ギャンブル行動症に対する対策の遅れが,にわかに社会の注目を集めることになった。そして,2016年12月,特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(以下,IR推進法とする)の成立にあたり,その附帯決議において「ギャンブル等依存症患者への対策を抜本的に強化すること」が求められたことにより,ギャンブル行動症対策が本格的に進み始めることとなった。
しかし,ここで大きな課題があった。その課題とは,ギャンブル行動症に対する治療体制が整っていないことである。樋口ら(2017)によれば,日本において,成人の0.8%,約70万人の「ギャンブル等依存が疑われる者」がいると推定されていたにもかかわらず,ギャンブル行動症に対応できる医療機関はほとんどなく,そのため,厚生労働省が実施する患者調査の結果からは,2017年において,外来患者は3,499人,入院患者は280人と,185倍もの治療ギャップがあった(厚生労働省,2019)。
そこで,この課題を解決するために,2015年に島根県の精神保健福祉センターにおいて開発されたギャンブル行動症に対する回復プログラムが,2017年以降,全国精神保健福祉センター長会の主催する研修により,全国の精神保健福祉センターに展開され,それによって,精神保健福祉センターにおけるギャンブル行動症に関する介入が均てん化されることになった。本稿では,このことについて解説する。

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