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Ⅰ はじめに
ギャンブル障害(ICDではギャンブル行動症)は精神疾患であるが,これらを多くの精神科医が扱うようになったのはごく最近である。2016年に特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(通称;IR法案)に関する議論をきっかけに社会のギャンブル障害に対しての認知は広がったが,それ以前は医学部教育の場でギャンブル障害について学ぶことはほぼなかった。政府は2018年にギャンブル等依存症対策基本法を成立させ,2019年にはギャンブル等依存症対策基本計画が閣議決定し,2020年には依存症対策全国センターを発足させるなど急速な動きを見せている。
2023年に行われた「ギャンブル障害およびギャンブル関連問題の実態調査」報告書ではギャンブル等依存が疑われるもの(PGSI:Problem Gamblig Severity Index 8点以上,過去一年以内)は1.7%(男性2.8%,女性0.5%)である一方で,レセプト情報では2020年度にギャンブル障害で精神科に通院・入院したものは3,752人に過ぎない(精神保健福祉資料,2020)。ギャンブル障害は抑うつ・不安・自殺念慮の経験割合が高いことが報告されている(依存症対策全国センター,2025)またオンラインカジノが広がったことやギャンブルからの借金で追い詰められたものが闇バイトに参加するなど,精神面・経済面の問題に加えて司法面の問題も出現し複雑化している。
ギャンブル障害を取り巻く環境・社会的なニーズが急変する中で,医療だけですべてを対応することは現実的ではない。医療が扱わなかった長い期間,ギャンブル障害患者を支えてきたのは自助グループ(GA:Gamblers Anonymous)であったが,GAと医療の連携がうまくできている例も少ない。自助グループの存在を知らない,名前は知っていても参加したことがないという精神科医も多い。ギャンブル障害に対して医療はそのニーズに十分に応えることができていないのが現状である。その中で医療が行うべきこと,現実的に行えることは何なのかについて,筆者が勤務する東京都の依存症治療拠点病院でもある昭和大学附属烏山病院(以下当院)の試みも含めて説明する。

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