- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
Ⅰ はじめに
近年, 米国保健福祉省物質乱用・精神保健サービス局(Substance Abuse and Mental Health Services Administration;SAMHSA)で開発された疾病管理とリカバリー(Illness Management and Recovery;IMR)をはじめとするEBP(Evidence Based Practice)ツールキットは,わが国でも徐々に普及してきている(SAMHSA,2009)。 IMRや包括型地域生活支援プログラム(Assertive Community Treatment;ACT), 援助付き雇用(Individual Placement and Support;IPS),家族心理教育(Family Psycho Education;FPE)に関しては多くの実践報告がなされ,その効果についても,各々の医療・福祉機関で独自の検証がなされるなど,少しずつではあるが,リカバリーの概念と共に,精神保健医療福祉領域において実証されつつある(大島,2016)。これらのツールキットは,それぞれに発展を続けており,今後の地域主体の精神保健医療福祉を推進するにあたり,重要な役割を担っていくといえよう。一方,SAMHSAでは,その後もさまざまなEBPツールキットが作成され,それらは,広く誰もが使用可能なように,WEB上で公表されている。その中の一つに,今回紹介する併存性(重複)障害のための統合治療(Integrated Treatment for Co-Occurring Disorders;ITCOD)がある(池田他,2024)。これは,併存性障害を対象に統合治療を目指した支援ツールキットであり,精神疾患と物質使用障害を併せ持つ者への科学的根拠に基づく支援技法が示されたものである。以前は,Integrated Dual Disorders Treatment(IDDT)という名称が用いられていたが,最近になり,「Dual Disorders」から「Co-Occurring Disorders」という名称に変更されたため,ここではITCODを採用した(池田他,2024)。また,「Co-Occurring」は和訳では「共起」となるが,あまり馴染みがないため,ここでは,近年のわが国の傾向に倣って,「併存性障害」という呼称を用い,ITCODについて紹介する。加えて, わが国でITCODが導入されることの意義と,その臨床応用にあたっての課題,リカバリー支援実践への展望についても論じる。

Copyright© 2025 Kongo Shuppan All rights reserved.