- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
Ⅰ はじめに
アディクションは支援ギャップが大きい(Taguchi et al.,2014)。だから,早期発見,早期介入が重要だと叫ばれる(Babor et al.,1986)。しかし,支援の彼岸にいるアディクションに悩む人が大挙として支援を求めるようになったら,誰が支援を担当するのだろう。アディクションの支援を担おうとする人が簡単に増えるとは思えない。実地でトレーニングを受け,一人前の支援者に育つまでにも時間がかかる。育ち方はまちまちで,支援の質は安定しないのではという疑念もある。アディクション支援に限った話ではないが,経験ある支援者ほど基本を外れ,却って被支援者の回復にとって妨げになることもあり得る(Waller,2009)。心理支援は感情労働であり,バーンアウトのリスクが高く,長時間労働にも限界がある(Jurblum et al.,2024)。ではどうしたらよいか。昨今の状況から誰もが思い浮かべるのがAIを活用した支援だろう。感情を持たないAIであれば,バーンアウトの心配をせずに馬車馬のように働かせて,支援の提供量を増やすことも可能かもしれない。
AIを活用した心理支援の試みは2010年代以降多く行われてきた。アディクション領域においても,2020年に実施されたアルコール,大麻などの物質乱用者を対象にしたランダム化比較試験では,AIチャットボットを用いた介入によって物質使用回数が減ったとされる(Prochaska et al.,2021)(この論文の筆頭著者は,“stage of change”モデル(Prochaska et al.,1992)で,有名なかのJames O. Prochaskaを父に持つ)。筆者もギャンブル問題への対応を支援するAIチャットボットを開発し,効果検証を行う研究を2022年に行っている(So et al.,2024)。しかし,この時点のAI技術では自然な言語的応答ができるとはとてもではないが言い難く,キーワードの一致をみるよりは多少気の利いたパターン認識によって場合分けした応答ができている,という程度のものに過ぎなかった。

Copyright© 2025 Kongo Shuppan All rights reserved.