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誤嚥・窒息をめぐる現状
わが国にはすでに超高齢社会が到来しており,高齢の嚥下障害患者は急速に増加している1).これにともない,高齢者の食物の誤嚥による死亡事故も増加しており,令和5年(2023年)度の「人口動態統計」によれば,「不慮の窒息」事故で亡くなった65歳以上の高齢者は7,779人で,そのうち,気道閉塞を生じた食物の誤嚥事故で亡くなったのは4,215人と,「不慮の窒息」事故で亡くなった高齢者の5割以上を占めていることが報告されている2).
日本医療機能評価機構が収集,分析している「医療事故情報収集等事業」3)の令和4年(2022年)度,5年度の2カ年のデータに基づく解析で,医療機関における食物の誤嚥,窒息に関する事例報告は90件であった(表1).発生要因では,職務関連要因が39件(43%)ともっとも多く,代表的な事例としては,医療者間での情報共有不足により,誤った食事形態が提供され窒息に至った事例が報告されていた.次いで,患者側要因が32件(36%)で,代表的な事例として,認知症などの疾病背景から高齢患者が早食いを抑えられず,食塊を喉に詰まらせ窒息する事例が報告されていた.以降は,環境・設備要因14件(16%),その他5件(5%)と続き,代表的な事例として,感染症対策のため個室隔離となり,食事摂取中の見守りが不十分となっていた結果,窒息に至った事例や,医療チーム内で嚥下機能低下リスクの情報共有が十分至らず,適切な介助が行われなかった事例などが報告されていた.
超高齢社会の到来にともなう入院患者,施設入所者の高齢化の影響や,患者側要因の影響の大きさからは,食物の誤嚥,窒息による医療事故の発生が,他の医療事故類型と同様に避けがたい側面を有していることは否めない.一方で,誤った食事形態の提供などの職務関連要因や,嚥下機能低下リスクへの不適切な介入など,一定の回避が可能とみられる事例報告があることから,誤嚥,窒息のエマージェンシーを避けるために,取り組むべき課題は多くあり,職種間連携や情報共有の向上,咀嚼や嚥下機能の評価フロー整備などに積極的な取り組みが求められる.

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