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はじめに
栄養学において,食物繊維は,物質の構造などから定義されているものではなく,ヒトが経口摂取した後の消化管腔内動態などを考慮した生理・栄養学的な側面から定義されている.日本食品標準成分表において,食物繊維は「ヒトの消化酵素で消化されない食品中の難消化成分の総体」と定義されている.一方,日本人の食事摂取基準(2020年版)では,食物繊維は,炭水化物のなかに区分され,炭水化物は,利用可能炭水化物(糖質または消化性糖質)と食物繊維(難消化性糖質)に区分される.利用可能炭水化物と食物繊維の有効エネルギー換算係数(以下,エネルギー値と称する)は異なるが,それは代謝経路の違いが影響しており,日本食品標準成分表では,利用可能炭水化物のエネルギー値は4 kcal/gとされ,食物繊維は2 kcal/gとされている.本稿では,食物繊維と利用可能炭水化物のエネルギー値の違いをそれぞれの経口摂取後の消化管腔内動態を踏まえて概説する.
2015年に施行された食品表示法により,加工食品の栄養成分表示が義務化されたことにより,食物繊維をはじめとした難消化性成分のエネルギー値の評価の必要性が高まっている.しかしながら,食物繊維をはじめとした難消化性糖質は,それぞれの化学構造や物理的特徴によって生体内における運命が多様であるため,そのエネルギー値の評価は複雑である.それゆえ,評価方法は,いまだ国際的に統一されていないことが現状である.本稿で紹介する「食物繊維(難消化性糖質)のエネルギー評価法」は,科学的根拠のある測定方法の一つとして認められている.この評価方法は,ヒト呼気水素ガス排出を指標として大腸内における発酵性を評価する間接的なエネルギー評価方法であり1),評価の対象となる試験物質は限定的である.食物繊維と定義される物質のすべてに対応できるものではないため,「食物繊維(難消化性糖質)のエネルギー評価」というより,むしろ「ヒト呼気水素ガスを指標とする食物繊維のエネルギー値の評価」と言うほうが妥当である.本稿では,本評価方法の原理(考え方)について,ならびに今後のエネルギー値の評価に向けたビジョンも含めて概説する.
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