Omicsで描く肥大型心筋症の分子地図

A molecular map of hypertrophic cardiomyopathy through omics

　肥大型心筋症（HCM）は比較的頻度の高い遺伝性心筋症であり，サルコメア遺伝子変異による心肥大や線維化を素因として，心不全や不整脈，突然死といった合併症を生じることがある．しかし，サルコメア遺伝子変異が陰性の症例でも顕著なHCMの表現型を呈することがあり，遺伝子変異だけで病態を説明することは不可能である．既知の遺伝子変異の有無にかかわらず，HCMを特徴づけるようなシグナル経路異常が同定されれば，病態解明への糸口となる可能性がある．筆者らは，HCMおよび他の心筋疾患の患者血漿に対する “-omics”，特にproteomicsとtranscriptomicsを行い，HCMに特異的な分子経路の探索を行ってきた．さらに心筋への “-omics” 解析を通して，血漿と心筋の分子経路に共通点を見出す試みも行った．これらの “-omics” 研究は，これまで実現しなかったHCMの血液診断パネル検査や，予後予測パネル検査の作成にも寄与する可能性があり，実現すれば，診断の遅れの解消や，予後不良例への適切な介入を促す一助となる可能性がある．