特集 DOHaDと周産期医療
DOHaD研究の歴史
疾病リスクのリプログラミングを目指した世界の現況
福岡 秀興
1
FUKUOKA Hideoki
1
1千葉大学予防医学研究センター
pp.1455-1460
発行日 2024年11月10日
Published Date 2024/11/10
DOI https://doi.org/10.24479/peri.0000001773
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はじめに
胎児期の望ましくない環境で発育した児は生活習慣病の発症リスクが高く,逆に妊娠中に望ましい環境で発育した児は疾病リスクが低く健康に過ごすことが可能であるという,疾病・健康に対する考え方(developmental origins of health and disease:DOHaD)が注目されている。「成人病(生活習慣病)の素因は,受精時,胎芽・胎児期に遺伝子と望ましくない環境(栄養・ストレス・環境化学物質など)との相互関連で形成され(プログラミング),その素因に乳幼児期・小児期にマイナス生活習慣が負荷されることで発症する。疾病はこの2段階を経て発症する。素因とはエピジェネティクス変化であり,世代を超えて存続する」と考えられている。それゆえ,たとえ疾病リスクが高い状態で生まれても,出生後の多様なケアでリスクを低くできる可能性があることが明らかとなってきた(リプログラミング)。またその疾病素因をもって妊娠した場合は,世代を超えて疾病発症リスクが存続していく(transgenerational effect)可能性があるが,リスクを軽減・抑制できる可能性も出てきている。DOHaD研究から新たな生活習慣病の発症阻止への光が差し始めているといえる。多様な疾病の発症を根本的に抑制するのに必要な新しい医学概念こそが,井村裕夫先生の提示されている「先制医療」である。従来の予防医学を超える考え方であって,その基本はDOHaDに求められ,『ライフコース・ヘルスケアは,社会と健康の概念を変革する医療であり,個の予防としての「先制医療」は胎生期から』といわれている1)。
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