誌説
新専門医制度について思う
岡田 誠司
1
1大阪大学整形外科教授
pp.1232-1232
発行日 2021年11月1日
Published Date 2021/11/1
DOI https://doi.org/10.15106/j_seikei72_1232
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医師育成のシステムが迷走している.
私の医学部卒業のころは卒業と同時に進む診療科を決定したうえで,多くの者は出身大学の医局に入局し,研修を積みながら一人前の医師へと成長するというのが一般的であった.ところが,2004年より始まった初期研修制度により母校以外での研修施設を選択することが体制的にも心理的にも容易になり,大学病院以外の,特に都市部での研修病院に高い人気が集まるようになった.さらに,若者が入局前に診療科間での忙しさや報酬などの違いを目の当たりにすることで「どの科が生活の質(QOL)が高いか?」という視点をもつことにつながった.女性医師の増加も大きく関係しているであろうが,結果的に外科や脳外科など多忙な診療科を志望する者は減少し,都市部の皮膚科や精神科などの緊急の呼び出しが少なく定時に帰りやすい科に入局する者が増加した.これが現在の若手医師の「地域偏在」および「診療科の偏在」につながっていると考えられる.県によっては医学部入試に地域枠というのを設けたが,法的な拘束力もなく実効性はほとんどなかった.個人的には20年近く経過したこの新臨床研修制度のどこが,元々の狙いであった医師としての人格育成に役立ったのかはなはだ疑問である.
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