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自然破壊と温暖化,大規模災害,国際安全保障のゆらぎと難民,格差と差別,少子高齢化と過疎化など国内・外に蔓延する解の見えない多くの問題に直面し,若者には二つの選択肢がある.一つは考えることを諦め,偏差値競争を続けることである.もう一つは,自ら目標を定めて主体的に行動することを通して社会が直面する問題の解決に貢献する道である.前者を求める学生には知識と問題解決のテクニックを教えれば良い.後者を目指す学生に対しては,教育者は既存の正しい知識を「教える」だけでなく,学習者が自ら学び,解決すべき問題を発見し,新しいアイディアを生みだすように「引きだす」役割を意識する必要がある.
新しいアイディアが価値を創造し,社会変革がもたらされることをイノベーションという.そしてイノベーションは,「知の創造」,「知の具現化」,「知の商業化」の三段階を経て完成する1).イノベーションは学べるのか,という問いに対する一つの答えとして,スタンフォード大学教授・Paul Yock氏が創設したバイオデザインと呼ばれる医療機器人材育成プログラムがある2).これは,ニーズの探索・選択から,コンセプト(解決策)の創出・選択,事業化(知財戦略と販売戦略)までを,医師・工学者・企業の営業/技術者などからなる4人1組のチームで10ヵ月かけて実践するもので,2001年の開始以来,400件以上の特許を取得し,680人以上の新規雇用を創出,50万人以上の患者が開発された医療機器の恩恵を受けている.2008年にはインド・バイオデザイン,2010年にはシンガポール・バイオデザインがそれぞれ創立された.日本でも2015年,スタンフォード大学と東北大学・東京大学・大阪大学の3大学との間でプログラム協定が調印され,10月から第一期がスタートした.2017年9月現在,すでに第一期フェロー(受講者)による起業が1件あり,第二期が修了,10月スタートの第三期フェローが決定している.このように従来日本で軽視されてきた「知の具現化」と「知の商業化」は学ぶことができる.
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