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記憶とは,新しい経験を記銘し,それを一定期間保持して,その後に再生(想起)する機能であり,認知機能の一つである.記憶障害は多くの認知症でみられる症状だが,とくにAlzheimer型認知症(以下AD),Lewy小体型認知症,血管性認知症において目立つ.記憶は言葉で表せて意識化できる陳述記憶,技術の記憶など言葉にできない非陳述記憶に分類され,陳述記憶はさらに出来事(エピソード)記憶と意味記憶に分けられる.出来事記憶の障害は,ADの最も初期に現れる徴候である.一般的な症状としては,「同じ質問や同じ話を何度も繰り返す」,「大切な約束を忘れている」,「コンロを消し忘れる」などがあげられる.ADでは,海馬と側頭葉内側部に最も早期に,かつ深刻な障害を受ける.ADで出来事記憶の障害が顕著なのは,海馬が個人の新たな体験を記憶することに直接関連する脳部位だからである.意味記憶は「対象物が何であるか」,「バナナの色」や「皇居に誰が住んでいるか」といった概念や事実に関する知識であり,特定の出来事記憶と関連しない.意味性認知症ではこの意味記憶が障害される.出来事記憶の障害がある患者でも非陳述記憶である手続き記憶(自転車乗りやスポーツのような技能としての記憶)は保たれるので,日常生活動作は行えていたりする.記憶障害のある患者が受診したときに,“どのような記憶障害があるのか” を正確にとらえることは,疾患を想定するうえで非常に重要である.また記憶障害は認知症以外にも,脳血管障害,てんかん,内科的疾患(ビタミン欠乏症,甲状腺機能低下症,神経梅毒,肝性脳症など),正常圧水頭症でも認めることがあり,薬剤の副作用,抑うつなどの精神状態も考慮すべき病態である.
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