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はじめに
記憶に関する研究は古くは1880年代に遡り,RibotやEbbinghaus,Korsakoffらの心理学的研究に端を発するといわれる1).その後1930年代にはLashleyに始まる神経心理学の分野,1940年代にはHebbを中心とする神経科学の分野が登場し,シナプスの伝達効率の変化により脳内に新しい神経回路結合が生成されることが記憶であるとの仮説がたてられた2).現在では実験的研究によって,可塑性シナプスのレベルにおける記憶の神経機構が解明されつつある1,3).しかしながら,「治療」として記憶障害の研究が行われるようになったのは比較的新しく,本格的な臨床研究が開始されたのは1970年代後半のことである.神経心理,認知心理,行動心理の3つの心理学の分野とリハビリテーション医学の統合によって進歩しつつあるといえる4).
記憶障害を引き起こす原因としては,慢性アルコール依存によって生じるWernicke-Korsakoff病の他,Alzheimer病やPick病,Huntington病などの進行性変性疾患,脳腫瘍,てんかん後側頭葉切除術などがよく知られているが,リハビリテーション医学の分野において多く取り上げらるのはクモ膜下出血や後大脳動脈梗塞などの脳血管障害,頭部外傷,脳炎など,非進行性の記憶障害が主体である.特に頭部外傷(脳挫傷)による記憶障害のリハビリテーション治療については,社会復帰を目指すという観点から,1980年代より欧米を中心として盛んに検討され,“Cognitive Rehabilitation”あるいは“Cognitive Remedlation”の一部として位置づけられてきた.
本稿では,主として頭部外傷による記憶障害のリハビリテーション治療の内容とその成果に関する最近の研究報告について紹介する.記憶の構造や神経機構の詳細については既に多くの成書1,4,5)が刊行されているため,定説となりつつある報告を中心として,最初に概説する.
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