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どんな薬?
白血病は造血器腫瘍のなかで2番目に多い疾患で,年間約14,000名が罹患しています.死亡者数は年間約9,000名で,5年相対生存率は44%と決して予後がよい疾患とはいえません.白血病には種類があり,白血病細胞の増殖速度から「急性」と「慢性」に分け,どの細胞ががん化したかによって「骨髄性」と「リンパ性」に分けられます.急性リンパ性白血病は小児に多く,標準的治療が行えた場合80%以上が治癒を得ることができます.成人では急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)が多く,予後は年齢,PS(全身状態),遺伝子異常の内容によって異なります.AMLは,造血幹細胞に近い未熟な造血前駆細胞(造血幹細胞から分化して赤血球や白血球などの血液細胞を作り出す細胞)に異常が起こり,がん化した細胞が単クローン性に増殖し,成熟細胞への分化の停止を引き起こす特徴があります.早期に治療を行わなかった場合は,感染症や出血などによって診断から短期間で致死にいたります.初期症状として,全身倦怠感や風邪様症状(発熱,咳,痰),貧血,出血が出現します.AMLが疑われる場合,血液検査(血球算定,凝固系,血清,生化学など),骨髄検査(染色体・遺伝子解析)などを行い,診断されます.
急性骨髄性白血病の予後層別化因子層別化因子 良好となる因子 不良となる因子 [日本血液学会編:1急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML).造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版,11頁,金原出版,2023より引用] 年齢 50歳以下 60歳以上 全身状態(PS) PS 2以下 PS 3以上 染色体核型 t (8;21)(q22;q22.1) 3q異常[inv (3)(q21.3q26.2), inv (16)(p13.1q22) t (3;3)(q21.3;q26.2)など] t (16;16)(p13.1;q22) 5番・7番染色体の欠失または長腕欠失 t (15;17)(q24.1;q21.2) t (6;9)(p23;q34.1)複雑核型 遺伝子変異 NPM1変異 FLT3-ITD変異 両アレルCEBPA変異 寛解までに要した治療回数 1回 2回以上
AMLは,白血病細胞の染色体異常と遺伝子変異によって予後良好群と予後不良群に分類されます(表1).ギルテリチニブの標的分子となっているFLT3遺伝子変異は予後不良群に入っており,寛解導入療法によって寛解が得られない難治性や,寛解が得られたとしても再発のリスクが高いといった特徴があります.FLT3遺伝子は造血幹細胞・前駆細胞に発現している受容体型チロシンキナーゼで,リガンドが結合すると①PI3K/AKT/mTOR,②RAS/MAPKなどシグナル伝達経路が活性化し,細胞の生存・増殖・分化を促進します.FLT3遺伝子に変異があった場合,FLT3リガンドの結合に関係なく,恒常的活性化によって細胞増殖が促進されます.ギルテリチニブはFLT3のATP結合部位に結合し,リガンドが結合していない状態での不活性型,リガンド結合後の活性型ともに阻害作用を示して,白血病細胞の増殖を阻害する分子標的薬です.
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