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どんな薬?
膵臓がんの多くは進行期でみつかり,切除不能あるいは切除できても再発率が高く,予後不良の疾患として認知されています.進行膵臓がんに対する薬物療法は,フルオロウラシルを中心に行ってきましたが,その治療成績は非常にわるく,新薬の開発が期待されていました.そんな中,1996年に米国のイーライリリー社がゲムシタビンを合成・開発し,症状緩和効果や1年生存率がほかの抗がん薬に比べ高いということが認められ,膵臓がんの第1次治療薬として承認されました.その結果を受けて日本でも2001年に膵臓がんで保険適用となりました.現在では,非小細胞肺がんや胆道がん,尿路上皮がんなどでも,単剤療法や多剤併用療法で効果を示しています.
日本でゲムシタビンが発売された当初は,薬の広告塔として犬のシベリアン・ハスキーが使われており,今でも当時のぬいぐるみが外来に飾ってあるという施設もあるのではないでしょうか(確か名前は「バルト君」).当時の製薬企業担当者から聞いた話では,シベリアン・ハスキーの性格は明るく前向きで,責任感があり,厳しい状況(極寒)の道のりでも犬ぞりを牽引して人荷の運搬や狩猟補助などを行うという特徴から,膵臓がんの治療という厳しい道のりでも必ず効果を届けるということでゲムシタビンの広告塔になったと聞いた覚えがあります.もちろん今ではそれを確認するすべはなく,都市伝説だったのかもしれませんが,その話を聞いて変に納得したのを覚えています.
ゲムシタビンは,現在でも膵臓がんに対する第1次治療薬として使用されていますが,その効果には個人差があり,治療効果が十分に得られていない現状もあります.最初は有効であった膵臓がんでも,最終的にはゲムシタビンの耐性を獲得し,効果が得られなくなっていることも多いといわれています.このゲムシタビン耐性獲得のメカニズムについては国内外の研究者が解析をしており,DNA構成成分のデオキシシチジンをリン酸化する酵素(デオキシシチジンキナーゼ)の機能低下によって,ゲムシタビンの活性が抑制され効果を示さなくなるという報告も出ています.このことから,デオキシシチジンキナーゼの不活性化はゲムシタビン抵抗を獲得するための重要なメカニズムであることがわかり,新薬あるいは多剤併用療法の開発,新たな標的分子発見のための研究が進んでいます.
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