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がん患者の治療,栄養管理の場は,入院治療から外来・通院療養に移行してきている.そして,最期まで患者や家族の意向に沿い,多職種ケアによって支えられる在宅療養を望む患者が増加している.そのため,各医療職種が協働して,入院から地域在宅につなげていくことが必要となる.最期まで在宅で過ごすためのポイントは,呼吸,摂食,排泄,疼痛ケアを安定した状態に保ち,本人と家族の意思を中心として,「信頼と安心」に基づいた医療であるための信頼関係を育むことである.
食の支援は,病期に応じた目標に寄り添うことが大切である.がんの告知から治療の選択,治療が実施される積極的治療期は,治療を完遂するために,治療による副作用対策,あるいは積極的な栄養療法の栄養食事指導を行う.慢性療養期は,切除不能進行・再発がんであっても,不応性の悪液質に陥ったと判断されるまでは,体重と骨格筋量を減少させないために,必要栄養量を適切に摂取する栄養と食事について支援する.また,栄養状態を保つための個々の生活状況に応じた栄養食事摂取を提案する.
終末期を迎えるまでのがん患者は,患者自身が主導権をもって積極的に栄養と食事を自らがコントロールする治療にかかわりたいと強く考えている1).食行動は闘病の支えとなると感じることのできる領域であり,そうすることで心理的な効果をもたらす2).Lynnは終末期の疾患軌道を,「がんなどのモデル」「心肺疾患などの臓器不全モデル」「認知症・老衰モデル」の3つに分類した3).がんの経過の特徴から管理栄養士が在宅でかかわる時期は,およそ亡くなる1~2ヵ月前の身体機能が保たれる時期から個人差はあるが「寝たきり」の期間のおよそ1~2ヵ月である.がんによる代謝異常,悪液質が原因となり通常の栄養投与では機能が低下していく終末期は,がんの進行とともに食欲不振や体重減少が増強した食欲不振-悪液質症候群(anorexia-cachexia syndrome:ACS)の状態となり,筋肉,脂肪の両方が著明に減少する.経口摂取ができないことや輸液療法に関連した苦痛について,何が患者・家族にとって不安や気がかりであるかを共感的に傾聴することが大切である.
患者の希望を考慮し,十分な対話によって,家族の「何もしてあげられない」という無力感や自責感を和らげることに努め4),「見る,口にする」「笑顔」を誘う食事の提供,すなわち「食べる喜び」の食事の提案は,緩和ケアとして重視される5).終末期は,最後まで「口から食べること」を優先的な課題として,食事が摂取できないことによる家族と患者の苦悩を軽減する必要がある.
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