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治療の全体像と薬物療法
ステージ別標準治療(図1, 2)
ステージⅠ~Ⅲ
膵臓は主に3つの部位(頭部,体部,尾部)からなる臓器で,解剖学的な特徴としては重要血管や神経叢に囲まれている.膵がんが厄介なのは,容易に膵臓の外に向かって浸潤する性格を有し,がんが占拠する部位によって広がり方が異なるところである.上腸間膜静脈(SMV)や門脈(PV),上腸間膜動脈(SMA)や腹腔動脈(CA),総肝動脈(CHA)への浸潤の有無や程度によって,「切除可能:R」,「切除可能境界(ボーダーライン):BR」,「切除不能:UR」に分けて診断される.また,「ボーダーライン」には,門脈系のみに浸潤があるBR-PV,動脈系まで浸潤があるBR-Aと表現され術式に大きな影響がある.また,遠隔臓器に転移がなくても局所での進行が強くて切除不能なステージⅢの場合,UR-LAと表現する.
これらの判断には,内科,外科,放射線科ら多職種によるチーム医療が不可欠であり,切除可能か否か,ボーダーラインでも切除が見込めるのかの診断基準は施設間格差が大きいといえる.また,テクニカルな「切除可能」でも腫瘍マーカーCA19-9高値や腫瘍径が大きいオンコロジカルな「ボーダーライン」もあり,それぞれで治療戦術・戦略が異なってくる.
知られているように膵がんは早期のうちに発見されることが少なく,非浸潤性のステージ0で発見される機会はほとんどない.多くは症状を有して発見される浸潤性の場合がほとんどであり,腫瘍径20 mm以内かどうか,膵臓外の間質においてがん細胞がどこまで浸潤しているか,リンパ節転移の有無などを加味しながらステージング(図2)される.
現状,ステージⅠ以上で診断される膵がんには,なんらかのかたちで化学療法が導入される時代に突入している.「切除可能」には術前補助化学療法,「ボーダーライン」にはより強度をあげた化学療法,「切除不能」には化学療法もしくは化学放射線療法が推奨される.「いきなり手術」はすでに古い治療体系であることを認識していただきたい.
昨今の化学療法の進歩や個別化ゲノム診療が功を奏して,「ボーダーライン」や「切除不能」が,「切除可能」へと転向できるいわゆるコンバージョン症例も増えてきているため,漫然と抗がん薬治療を行うのではなく,切除可能性についての再評価が重要である.
一方で,本連載の胆道がんの項でも触れたが,いくら化学療法が進歩しているとはいえども,治療成績が劇的に改善されているわけではなく,現状「難治がん」であることには変わりない.だからこそ,治癒を目指した主軸となる手術は高度技能専門医のいる手術症例の多い施設で行われるべきである.
手術後は再発リスクを減じるための術後補助化学療法が強く推奨される.
ステージⅣ
遠隔転移がある場合(UR-M)に相当し,全身化学療法が選択される.閉塞性黄疸や胃・十二指腸閉塞がみられる症例には,まずはドレナージ術やステント留置,あるいは外科的バイパス吻合術によってQOL (quality of life)改善を優先させる必要がある.粒子線を含む放射線療法,化学放射線療法の有用性は,現時点では根拠が不十分である.また,膵がんはある時点より急速に症状が悪化しやすいため,言わずもがな質の高い支持・緩和ケア療法をいつでも行えるような体制づくりは不可欠である.
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