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はじめに
私がOTになった当時は経鼻胃管栄養を行っている患者さんが多く,自己抜去防止のためにミトン型手袋をはめさせられたり,両手をベッドに縛られたりして「抑制」されている方もいました.抑制されている患者さんは時間が経つにつれて行動に変化が起こります.彼らは最初こそミトン装着による抑制を嫌がるものの,次第にその抑制に慣れて,リハが終わると抑制されるために自ら手を差し伸べるようになるのです.たとえ重度の認知症があっても同じです.抑制されることがあたり前になって人生の最期を迎える姿は,「本人のため」とは程遠い状況にあり,OTとして何もしてあげられなかった自分を,今でもとても情けなく感じています.
2000年(平成12年)ごろには経皮内視鏡的胃瘻造設術による胃瘻栄養法が日本でも普及し,抑制される経鼻胃管栄養の患者さんは減り,経口摂取が困難であっても人間らしい生活を送ることが可能になりました.その一方で,安易に胃瘻造設が行われることも多くなり,胃瘻造設が施設入所や通所サービス利用の条件となっているために不本意に経口摂取をあきらめるケースや,医療側や家族が一方的に胃瘻栄養を選択するケース等,本人のための支援とは考えにくいケースが増えてきました.
このように人工栄養の手段一つをとってみても,食事に関する問題は非常に複雑です.そしてこの多様化した現代の食事支援に唯一無二の答えを求めることは不可能です.新名1)は倫理学を「正解のない学問」と表現し,倫理学は1つの正答を求めるのではなく,みんなでルールを考え,いくつもある正解の中から答えを選択していく学問だと述べています.食事支援も同じです.食事支援で大切なことは唯一の正解を探すことではなく,本人のために最もよい食事支援とは何なのかを私たちが考え続けることであり,その先に食事支援の本質的なあり方がみえてくるのだと思います.
本稿では「本人のための食事支援」を再考すべく,主に2つのことについて解説します.1つめは,「誤嚥性肺炎」,2つめは人工栄養を含めた「終末期の問題」です.いずれも唯一の正解はなく,食事の作業療法とかけ離れているように感じるかもしれませんが,これらは食事支援の方向性を検討するための重要な情報です.
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