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付帯11
がん患者の経済的負担と治療や日常生活への影響
青山 真帆
Maho AOYAMA:東北大学大学院医学系研究科保健学専攻緩和ケア看護学分野
はじめに
分子標的治療など新薬の使用,先進治療などによって,治療による副作用や侵襲は低くなり,生存率も上昇している一方で,がんに対する医療費は増加傾向にあり,がん患者自身の経済的負担も増大している1~3).米国中心にがん治療による経済的負担は,患者の生活の質(QOL)を下げ,がん治療の選好や意思決定に影響を与えることが明らかになっている4~6).先行研究では,がん治療により家計を圧迫されたがん患者の約20%程度が薬を処方量よりも自己判断で減量して内服する,処方薬を受け取らないなど治療に影響を与えることで,経済的困難に対して対処していた4).さらに,がんの再発や再発予防の治療に対する選択についても,経済的理由によって中止や変更をする問題が指摘されている4).近年,このようながん治療による経済的負担の増大とそれによって患者の日常生活や健康行動に対して生じるもろもろの問題は“Financial Toxicity”と呼ばれ,患者の健康問題や受けるケアの質に影響を及ぼす要因として,注目されている3,5).
しかし,医療制度や社会・文化的背景の異なるわが国での事態は明らかではない.また,がん治療はがんの種類によって異なること,治療費の負担は転移や再発によって,治療期間が長くなり,患者の健康状態が低いほど大きくなる可能性があり,治療の全期間の状況を考慮した調査が必要である.
付帯10
死別前後の遺族の経済状況の変化と悲嘆・抑うつ
青山 真帆
Maho AOYAMA:東北大学大学院医学系研究科保健学専攻緩和ケア看護学分野
はじめに
遺族は,患者の死そのものはもちろん,それに伴って生じるさまざまな変化や問題に直面する.そのうちの1つとして,経済的問題がある.坂口らが配偶者と死別後の121名を対象とし,配偶者との死別後に経験したストレスについて調査した結果,36%が経済的問題によるストレスを経験したと回答している1).死別が遺族の経済状況に影響を与える理由は多岐にわたると考えられる.1つは,患者が家族の中で中心的な稼ぎ手であった場合や,夫婦の年金受給世帯であり配偶者との死別により,年金が世帯として半減する場合などは,とくに直接的に死別が経済的問題に関連することが推測される.2つめは,患者療養中の経済的負担である.過去の遺族調査(2014年J-HOPE3研究)において2),患者の介護による経済的負担が大きかったと回答しているがん患者遺族は全体の23%(1,883名)であった.がん患者の介護による経済的負担は,患者死別後まで継続する可能性もあるが,この点については明らかになっていない.死別後の悲嘆や抑うつの強さの関連要因の一つとして,患者介護による経済的負担があげられ,このことからも患者療養中の家族の経済的負担は,遺族の死別後の生活への影響を与えている可能性がある.
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