- 有料閲覧
- 文献概要
子宮頸がん,その原因のほとんどは,ヒトパピローマウイルス(human papilomavirus:HPV)であり,性交渉を通して,女性の8割が生涯に一度は感染するごくありふれたウイルスです.感染しても,すべての人においてがん化するのではありませんが,わが国では毎年約1万人の女性が新たに子宮頸がんに罹患し,約3,000人が死亡しています.20代後半~40代の,妊娠前~子育て中・働き盛りの若年世代に増えているがんであることから,「マザーキラー」ともいわれています.
その子宮頸がんが,HPVワクチン接種と,検診の2段構えで“予防できるがん”であることはあまり知られていません.2007年からHPVワクチン接種に取り組んできたオーストラリアでは,15歳女子のワクチン接種率は約8割に達し,2028年に子宮頸がんの罹患率が10万人あたり4人にまで減少(日本では12人前後)し,2066年には1人になり,ほぼ撲滅されるといわれています.一方,わが国では,今後も子宮頸がんに罹患する人は減らないと予測されています.その背景の一つに,2013年6月に,厚生労働省がHPVワクチン接種の積極的勧奨を中止して以降,ワクチン接種率が1%未満に激減していることがあげられます.HPVワクチンをめぐってはメディアの発信する情報の影響を強く受け,正しい情報が得られにくい状況が続いており,いまだ「HPVワクチンは副作用が強く出て怖い」というイメージが強いのではないでしょうか.
本連載では,子宮頸がん予防のための最新のエビデンスと,医療従事者や市民に正しい知識を普及させるために私たちが行った取り組みについて紹介し,わが国の子宮頸がんの予防について,その方向性をみつめなおす機会としたいと考えています.
私たち看護師が子宮頸がんとその予防方法について正しい知識をもち,家族や友人,周りの人々に正しい情報を提供することで,子宮頸がんにかかる女性が少しでも減ることを目指すとともに,これを自分たち自身の問題としてもとらえ,自分や自分の子どもを子宮頸がんから守るための情報源となることを期待しています.
© Nankodo Co., Ltd., 2020