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付帯研究19
緩和ケア病棟で家族を亡くした遺族における悲嘆症状の体験:持続性複雑死別障害,遷延性悲嘆障害,複雑性悲嘆に含まれる症状からの検討
青山 真帆*
*Maho AOYAMA:東北大学大学院医学系研究科 保健学専攻 緩和ケア看護学分野
はじめに
大切な人を亡くした遺族が経験する強い悲しみなどの反応を悲嘆反応と呼ばれる.悲嘆反応自体は誰にでも起こりうる自然な反応であるが,強い悲嘆反応の持続は遺族の生活上の支障につながる.死別後一定期間経過しても持続し,その程度や期間が正常を逸脱しているような場合には,臨床的な介入が必要であると考えられる.しかし,このような強い悲嘆反応あるいは病的な悲嘆については,研究者や臨床的立場によって概念や定義・診断基準・呼称が異なる.主な定義・呼称としては,複雑性悲嘆のほか,米国精神医学会「精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5)」による持続性複雑死別障害1),世界保健機関による国際疾病分類(ICD-11)による遷延性悲嘆障害が挙げられる.持続性複雑死別障害や遷延性悲嘆障害基準では,生活に支障をきたす患者の多く(約50%)が見過ごされると指摘される2)一方で,複雑性悲嘆の概念を持続性複雑死別障害や遷延性悲嘆障害の基準とは異質なものとして批判するデータも提示されている3).
このような背景によって,臨床でケアにあたる側としては,具体的に病的な悲嘆反応をどのようにとらえ,評価をし,どのようにアプローチをすればよいのか,いまだに不明確になっている現状がある.近年Cozzaら2)は持続性複雑死別障害,遷延性悲嘆障害,複雑性悲嘆というすでに提案されている診断基準における症状を網羅的に測定できるように,複雑性悲嘆質問票(complicated grief questionnaire:CGQ)を作成した.しかし,わが国の遺族において,このCGQがどの程度当てはまるのか,各項目のうち,どの項目・症状がより出やすいかは明らかではなく,既存の持続性複雑死別障害,遷延性悲嘆障害の診断基準との違いも明らかになっていない.診断的・概念的な定義や立場の相違を超えて,実際に遺族の多くが苦しむ悲嘆反応・症状を理解することは,臨床的にも重要である.
付帯研究31
死別後に家族が経験する生活の変化やストレスとなるようなライフイベントの影響
清水 陽一*
*Yoichi SHIMIZU:国立看護大学校/がん看護専門看護師
はじめに
家族は死別に伴い,収入や経済的保障の喪失,交友関係やサポートシステムの喪失,家族内役割や社会的なアイデンティティの喪失などの変化を経験する.信頼できる家族や友人などのサポートに頼ることは,死別後の生活の変化に対応するために有効であると考えられる.しかし,日本では,とくに高齢者において,世帯数の減少や地域社会の人間関係の希薄化により,社会的孤立が問題となっている.社会的に孤立した状態にあることで,周囲の人たちからの十分なサポートを受けられないことは,死後の生活の変化に対処することを困難にする可能性がある.
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