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は じ め に
人工股関節全置換術(THA)において,人工関節周囲感染(periprosthetic joint infection:PJI)は依然として重大な合併症の一つである.PJIの外科的治療には,二期的再置換術,一期的再置換術,あるいはインプラント温存下でのデブリドマン(debridement, antibiotics, and implant retention:DAIR)が,患者背景や感染状況に応じて選択される1,2).
PJI治療において,通常の抗菌薬投与のみでは十分な治療効果が得られないことがある.その主要因として,感染部位に形成されるバイオフィルムの存在があげられる.バイオフィルムは抗菌薬や免疫細胞の効果を遮断することが知られており3,4),その結果,最小発育阻止濃度(minimal inhibitory concentration:MIC)に基づく治療では効果が不十分であることが示されている5).
このため,PJIに対してはバイオフィルム破壊をめざす新たな治療戦略が求められている6,7).その一つが,最小バイオフィルム破壊濃度(minimal biofilm eradication concentration:MBEC)に達する高濃度の抗菌薬を感染部位に直接送達する局所治療である.MBECはMICの数十~数百倍に相当することがあり,全身投与では到達が困難である5,8~12).そのため,局所抗菌薬投与が有効な治療選択肢となる.
近年,持続的局所抗菌薬灌流療法(continuous local antibiotic perfusion:CLAP)が骨および軟部組織感染に対する治療法として注目されており,複数の報告がある13~16).CLAPは,陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy:NPWT)とドレナージチューブを併用し,抗菌薬を低流量で持続灌流することで,局所に高濃度の抗菌薬を供給する治療法である.
CLAPで頻用される抗菌薬には,濃度依存的な殺菌作用を有し,MBECも比較的低く,薬剤耐性菌にも有効とされるゲンタマイシン(gentamicin)がある14,17).しかし,ゲンタマイシンには急性腎障害(acute kidney injury:AKI)や第8脳神経障害などの副作用が報告されており18,19),その有効性と同時に安全性の検証も必要である.
CLAPは比較的新しい治療法であり,その有効性および安全性に関するエビデンスは限られている.特に有害事象の頻度や治療成功率に関するデータは十分ではない.そこで本研究では,股関節PJIに対してゲンタマイシンを用いたCLAPの治療成績と,関連する有害事象の発生率を明らかにすることを目的とした.

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