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は じ め に
整形外科分野において,人工関節や内固定材料などのインプラントを用いた治療は日常的に行われる標準的な手法であり,今後さらに高齢化が進行していくわが国においてはインプラントを用いた手術件数がより増加していくと予測される.
インプラントを使用するにあたり合併症の発生は深刻な問題であり,特に人工股関節全置換術(THA)の主な合併症として脱臼,弛み,破損および術後感染があげられる.近年では人工関節の材質やデザインおよび手術手技の改良による脱臼や弛み・破損の抑制,手術環境整備など合併症への対策がすすんでいる.しかし完全に克服したとはいえず,特に感染は一度発生すると,その治療には多大な困難が伴う.加えて昨今,糖尿病や肝疾患,透析患者などの感染リスクの高い症例に対する人工関節置換術や人工関節再置換も増加しており,感染症対策の必要性が増している.
日本整形外科学会の学術プロジェクト研究である「人工関節置換術および脊椎instrumentation術後感染症例の実態調査」によると,術後感染発生率は人工関節置換術で134/9,882例(1.36%)と報告されている1).また,初回THAよりも再置換術のほうが有意に感染率は高かったという報告もある2).
近年では人工関節周囲感染(periprosthetic joint infection:PJI)の予防対策の一つとして,人工関節表面の細菌付着やバイオフィルム形成を阻害することを目的に抗菌性素材を表面に付与してインプラント自体に抗菌性をもたせる抗菌人工関節研究・開発が盛んに行われている3~9).銀は太古よりその抗菌性能が知られており,ヒポクラテスも創傷の治療として用いていたともいわれている10).銀は無機系抗菌薬のなかでも広い抗菌スペクトルと優れた抗菌性能を有しながらも比較的安全性が高く,なおかつ耐性菌を生じにくいとされる.また,ハイドロキシアパタイト(HA)は脊椎動物の骨の主成分であり,良好な生体親和性と優れた骨伝導性を有する.佐賀大学では2005年より,京セラ社(京都)と抗菌性インプラント開発の共同研究を行い,銀とHAを複合化して金属表面にコーティングする技術を開発した.そして銀HAコーティングを行った人工股関節インプラントを,当大学で行った臨床治験の後に,2015年9月にAG-PROTEX HIPシステムとして製造販売承認を取得した.
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