Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
は じ め に
人工股関節全置換術(total hip arthroplasty:THA)の周術期合併症の一つに静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)がある1).抗凝固薬を使用しなかった場合,人工股関節全置換術(THA)周術期における深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)の発生率は42~57%,致死性肺塞栓(pulmonary thromboembolism:PTE)の発生率は0.1~2.0%と報告されている2).また症候性肺塞栓の90%はDVTに由来することから3),発生率は高くはないものの,症候性(ときに致死性)肺塞栓予防にDVT予防は不可欠であると考えられる.
筆者らは以前,抗凝固薬投与に加え,下腿マッサージ(CaM)法を用いることでDVTを有意に減少させたことを報告した4).さらにCaMのみとCaMと抗凝固薬を併用した場合,抗凝固薬併用群で周術期出血量が有意に多く,DVT発生率は同等であったため,CaMを行えば全例に抗凝固薬を投与する必要はないことを報告した5).しかしながらCaMは足関節を素早く底背屈しながら下腿最太部をマッサージするため,CaM施行者(当大学医歯学総合病院では術者および助手)の疲労を伴うこと,CaM施行時に患者の体が揺れるため,麻酔深度が浅い場合,麻酔が覚めたり,まれに喉頭痙攣を生じることもあるため,麻酔科医から嫌悪されることもある.また,DVTを有する症例に対してフットポンプ,カフポンフは原則禁忌であり6),CaM法のような機械刺激も望ましくないと推測される.
DVT予防法およびDVT形成後の治療法として弾性包帯(EB)による圧迫法が報告されている7).米国胸部外科学会のガイドライン「American College of Chest Physicians evidence-based clinical practice guidelines(8th edition)」では,足関節部での圧迫圧30~40mmHgで圧迫した場合,DVT後遺症を減少させたことからこの圧を予防にも推奨した8).
本研究の目的は,① EB法による圧迫法でのTHA周術期VTE予防効果をCaM群と比較すること,② DVTを有する例に対してEBを施行した場合のDVT増悪率およびPTE発生率を調査することである.
© Nankodo Co., Ltd., 2023