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酸化ストレスのセントラルドグマとして活性酸素(reactiveoxygen species;ROS)の毒性論が長く議論されており,ROSは様々な疾病に関与する酸化ストレスの病因として理解されている.ROSは生体内のエネルギー代謝や感染防御過程において発生する一連の活性分子種である.ROSのうち,ヒドロキシラジカル(・OH)や一重項酸素(1O2)などの反応性の高いROSは,生体分子に非特異的な損傷をもたらす毒性の強い物質である.一方,過酸化水素(H2O2)やスーパーオキシド(O2-・)などは,比較的反応性が低い分子種である.このようなおとなしいROSについては,生理的な状況でもミトコンドリアや各種NADPHオキシダーゼ(Nox)より生成されていることが広く認識されるようになってきた.特にH2O2 は,生体内でも比較的安定で半減期も長いため細胞内でも産生部位から離れた多くの分子を標的とすることができる.このことは,ちょうど,一酸化窒素(nitric oxide;NO)が安定なフリーラジカル種であるため細胞膜を越えて拡散しながら細胞・組織レベルでシグナルを伝達できることと似ている1) .すなわち,ROSが生成部位から十分な飛距離を持って標的分子と反応し,反応条件によっては生理的なシグナル伝達に関わるポテンシャルを秘めていることを意味している2)〜4) .さらに最近,各種ROS・NOにより脂質(脂肪酸)や核酸(ヌクレオチド)が酸化・ニトロ化され,親電子性を有する二次産物に変換されることでシグナルリガンドとして機能することがわかってきた1),5) .したがって,ROSは無秩序な破壊分子ではなく,むしろその固有の化学的反応性により多彩なシグナル応答に関与することで生体にとって重要な生理機能を発揮している.
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