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生命には様々なリズムが見られる.非常に周期の短いリズムから長いものまで,あるいは細胞・分子レベルの現象から個体の集団レベルまで実に多様である1)〜3) .こうしたリズムのメカニズムを理解しようとするときに直面するのは,リズムのループを記載するだけでは振動の本質に結びつかないことである.まず,リズムは繰り返し現象であり,どれが“原因”で“結果”なのかが明確でない.また,重要なリズムであればあるほど様々な生命反応が同様のリズムを示すが,多くの場合,分子生物学的解析の時間分解能はリズム間の因果関係の解明には不十分である.リズム間の因果関係を調べる1つの戦略は,各リズムの“保存量”を追究することであろう.“保存量”は物理学でも問題解明の重要な鍵となる.エネルギー保存則や運動量保存則は最も基本的な物理法則であり,多くの重要な物理現象の解明の出発点になる.ある生命現象で“保存量”が見られた場合,それを可能にするメカニズムは振動の最も基本的な過程になるとともに,その“保存量”は生理学的に重要な意義を持つことが期待できよう.では,生物リズムに保存されるものとは何であろうか.この問いは,成長速度や温度など,生命活動に普遍的な影響を与える要因を変化させたとき,何が安定に維持されるのかということであり,おそらく生物リズムがどのように役に立っているかという問いに近い.生物リズムの代表的な“保存量”は“周期”と“振幅”であろう.周期が保存される代表的なものは概日時計であり,24時間という生命活動とは無関係に決まった“周期”が保存される.一方,形態形成,発生,パターン形成などを制御する振動では“振幅”の維持が重要なのかもしれない.本特集では,各執筆者に様々なリズム現象の特性を裏付けるメカニズムについて語っていただくのだが,その前に生物リズムの解明に必要な基礎を考えてみたい.
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