特集 癌幹細胞の治療抵抗性とその打破
特集を読むまえに 基礎の基礎
赤司 浩一
1
1九州大学医学部 病態修復内科(第一内科)
pp.10-13
発行日 2011年12月22日
Published Date 2011/12/22
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難治性悪性腫瘍を根治する,ことにその再発と転移を抑制する新しい治療法を切り拓くことは,すべての人々の悲願である.これまでの基礎的癌研究は,様々な腫瘍化の原因を詳細に明らかにしてきたが,再発や転移という現象を含む統合的な解釈は難しく,根治につながる大きなブレイクスルーは得られていない.今,癌克服へのパラダイムシフトを呼ぶものとして,“癌幹細胞”が注目を集めている.この概念に沿えば,癌化とは細胞が癌幹細胞化した時点で成立する.癌幹細胞とは,自己複製能力と未分化性の維持能力を新たに獲得した細胞であり,通常の抗癌剤による治療に抵抗性を示す.正常細胞が癌幹細胞化する過程は,癌幹細胞へのリプログラミングと言い換えることができる.すなわち,いったん成立した癌幹細胞は,各種組織から作製したiPS細胞が同じ性質を持つように,種や臓器の枠組みを越えた共通の細胞生物学的特性を数多く有する.したがって,癌というヘテロな集団に対し,癌幹細胞を研究主題とすることにより,より普遍性を持った癌への理解が可能である.また,癌幹細胞は正常幹細胞と同様に,微小環境(癌幹細胞ニッチ)によって維持されており,癌克服のためには,種(たね)としての癌幹細胞と,それに対応する土壌としてのニッチの両方が治療標的となりうる.
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