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1.はじめに
近代化とともに寿命が伸長した過程は,疫学的転換(epidemiologic transition)として理論的に整理されている(Olshansky et al., 1989).それは感染症の撲滅を主な原因とした死因構造の変化に伴う死亡率低下の過程である.理論のなかでは,人類の死亡の歴史を4段階に分けている(表1).このような疫学的転換は人々の生存確率を変え,ライフサイクルの姿をまったく違ったものにした.それによって人生の時刻表は大きく変わるとともに,社会経済全体をも変えることとなった(Olshansky et al., 1989;鈴木,2007a;鈴木,2007b).
まず挙げられるのは,今後の死亡数の増大と人口構造の変化である.寿命が伸長している社会で死亡数が増大するということは一見矛盾のように思えるが,過去の長寿化によって順送りになってきた死亡が今後に現れてくるため,死亡数は急速な増加を示す.現在の年間死亡者数は約110万人であるが,団塊の世代がその死亡ピークを迎える2030年ごろには,約160万人に増加すると推定され,その受け皿(=死亡の場合)について深刻な問題をはらんでいる.
さらに,長寿化は今後の人口高齢化の一因となる.ただし,人口高齢化を引き起こす主因は出生率の低下,すなわち「少子化」である.フランスと日本は長寿化において肩を並べるが,出生率では現在フランスが人口置き換え水準付近にあるのに対して,日本ではその3分の2程度しかない.その結果,将来人口の年齢構成は大きく異なり,日本では人口高齢化がいちじるしく進行する.
すなわち,厳密には長寿化と高齢化は異なる現象であることを理解する必要があるが,日本では少子化と長寿化が重なることにより,世界でも飛び抜けた人口高齢化を経験することになる.具体的には,虚弱(フレイル)が顕著となる後期高齢者のいちじるしい増加である.
もう1つの見すごせない問題は,今後の高齢化率の伸びがいちじるしく現れるのが大都市圏ということである.農村部などの地方とは異なり,大都市圏には特有の高齢者を取り巻く環境(高齢者世帯やひとり暮らし等)が存在し,今後のソーシャルサポート等の問題がより顕在化してくる.
本章では,このようなわが国の直面するいわば超高齢社会において,高齢期における疾病予防と介護予防はどのように調整し,効果的な介護予防とはなにかという視点から,今後の高齢者の健康維持・増進についての糸口を提示したいと考えている.
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