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はじめに
老年看護の実践の歴史は長い.しかしながら,明確な理念や理論的な根拠のある体系としての「老年看護学」の歴史は浅く,その面の充実と発展を図ることが,様々な立場から求められている.併せて,教育研究や学会活動の蓄積など,社会的な役割や位置づけを明確にすることも期待されている.
表題に示した転換期という言葉には,①介護保険法に代表される保健医療福祉のケアシステムの転換期,という意味が大きいが,②新しい世紀への飛躍,③市民生活に直結する経済的な状況の転換,④さまざまな価値観の転換,さらにこれまでどの国も体験しなかった⑤超高齢社会への転換,など多くの意味を含んでいる.
この中で老年看護学の立場からは,特に「価値観の転換」が,人生観,道徳観,生き甲斐など,高齢者への看護援助の意味や本質,高齢者や障害をもった人々のQOLやアドボカシー8),12)の問題に直接的な関わりをもっていると言える.
家族を含め,高齢者一人一人がその人らしい生き方ができることを保障するという,豊かな時代には当然のこととして語られていたこれらの高邁な思想は,経済的不況という状況に直面すると,どこかに飛び去ってしまったかのようにみえる.
さまざまな転換を迎えている現在ほど,高齢者ケアの理念と看護学のパラダイムが求められている時代はないといっても過言ではない.これまでの成果を総括するとともに,現状の課題を見据え,市民感覚に立脚して今後の方向を考える必要がある.
その上で本稿では,人が生きること,病むこと,老いることの意味を,人間としての生活の基盤に立ち返って問い直したい.
なお,ここではパラダイムを「理想とするもの」という意味で用いているが,「パースペクティブ(視座)」という言葉を加えた方がより,適切であると考える.
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