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I.はじめに
脳神経外科医を含めて外科医の陥りやすい陥凹は手術「のみ」によって患者を治癒せしめうると考えることである.それは患者を全的な人間としてではなく部分の集合体としてしか見ない人間観に依っている.それは一方で外科医自身の手術「技術」(テクネー)を外科医自身の全的な人間としての,他の人間への全的な関わりから切り離して部分的なものへと低下させることに他ならない.筆者はこのような医療をholistic medicine(全的医療)に対してpiece-meal medicine(切り刻まれた医療)と呼ぶ33).更に全的医療とは単に個人としての医療従事者(heanth care provider)が個人としての患者(client)に関わることだけではなく,それぞれが属する共同体から,地域,国,世界との関わりの中で保健医療に関わっていくことをも意味している.
WHOのheanth care pyramidは人的資源,財政的資源の適正な配置,配分を示すもので世界の保健医療を語るときに避けて通れない一つの指標である.先端医療(hi-tech medicine)に従事する脳神経外科医にとってもまたこの世界の限られた人的,財政的資源の中でheanth care providerとして働くように要請されている.それは単に保健医療の枠組みの中でのみ考えられるものではなく,政治,歴史,文化,開発,公正,正義,平和,人権といった広いperspectiveの中で見られなければならない.人権との関係ではHealth rightという概念が提起されてきており20),文化との関係では伝統医学(tradi-tional or alternative medicine)が再評価されてきている3,18).1994年4月に起こったルワンダでの虐殺に医療従事者の一部が関与したこと1),歴史的にはナチスや,15年戦争中の日本軍が中国で行った人体実験に医師が関わっていたことなどを通して人権と保健医療との深い関わりが読みとれる.しかもそれは歴史的な出来事ではなく現在この地球上で起こっている出来事であることを“Health right”に関わる医療従事谷の一人として認識すべきであろう.本稿では上述の観点から,1)脳神経外科医にも知っておいてもらいたい(と著者が考える)地球規模の問題,2)世界の保健医療の現状,3)それに及ぼす世界銀行の政策,4)最後日本の地域保健医療の中で脳神経外科医の果たす役割について若干の見解を,著者の経験及びデータに基づいて論ずる.
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