巻頭言
自立支援の光と影—介護保険導入に寄せて
中島 紀恵子
1
Kieko Nakajima
1
1北海道医療大学看護福祉学部
1Health Sciences University of Hokkaido
pp.4-6
発行日 1998年11月15日
Published Date 1998/11/15
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- 文献概要
生活保護法第1条には,生活保護の目的として,最低限の生活保障にならんで「自立を助長すること」が規定されている.立法に携わった関係者の含意では,すべての人が持っている何らかのセルフヘルプ(自主独立)の可能性を発見,助長し,真の意味での生存権を保障することであったという.しかし現実の生活保護行政では,経済的に自力で生計を立てられることと解され,惰民養成の排除が強調されるようになった.しかし一方では,福祉施設の増設を進める機能をも果たした.すなわち,窮困度認定と措置委託に対する行政のnational minimumの徹底とこれに家族介護困難(セルフヘルプの可能性が認められない)を合わせることによって,施設を拡充し,そのもとで施設は保護されてきた.それは,サービスの対象である個々人の自立生活における選択権や専門家や施設・機関の自由裁量権の縮小につながる道でもあった.結果として,わが国の介護ニーズは,老人医療のカバーによってその場をしのぐといった実態がみられるようになったが,老人医療においても個々人の選択権の保障がなかったし,それは看護職や家族や老人の苦悩を増大させてきた.
近年は,障害者運動や性差別からの解放運動の中から,経済的自立だけではなく精神的な意味での他者への依存を脱却して,自らの判断と決定により,むしろ援助を積極的に利用しつつ自己決定権を確保して生きるという自立概念が提起されている.
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