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はじめに
下肢切断の主な原因は糖尿病・末梢血行障害であり,切断時年齢は60歳以上が大半で,下肢切断後の死亡率は5年で約70%といわれている1, 2).高齢者に義肢リハビリテーションを実施すべきかどうかについて,片脚立位の安定性,意欲,≧50%VO2 maxが60歳以上の大腿切断・股関節離断患者の義足リハビリテーション成功の予測因子とされている3).また,高齢大腿切断では,①義足歩行訓練には大変な時間と労力を要する,②合併症の重症度,片脚立位バランス,本人の意欲などが義足処方の判断材料となる,③大腿切断者の義足歩行訓練を行うには費用対効果の観点からの検証も必要である,と指摘されている4).
高齢者の義足適応・処方・部品の選択に関するエビデンスも限定的である.米国国防総省退役軍人庁(VA/DoD)のガイドライン(2017)5)にて「高齢者」に関するキーワードで検索したところ,該当したのは2件のみで,双方向的ゲームを歩行トレーニングに使用するランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)と,電子制御膝継手の使用を支持するものとであった.
本邦では,日本理学療法士学会が発表したガイドラインがあり6),同様に「高齢」に関するキーワードで検索したところ,義足処方の適応・部品の選択に関するものは1件で,「ゆっくりと歩くような高齢切断者にはSACH足が適応となる」であった.しかし,1995年の引用文献であり7),現在の状況を反映しているとは言い難い.
年齢にかかわらず,義足構成要素の推奨に関しては,VA/DoDガイドラインは「ソケットデザイン,足部の種類,懸垂,インターフェイスは十分なエビデンスがない」としている5).
実用歩行の定義を「100mをT字杖あるいは杖なしで歩行可能な状態」とすると3),高齢下腿切断者が実用性のある歩行・監視下での立位・歩行を獲得する可能性はきわめて高いとされる1)一方で,高齢高位切断者が義足歩行を期待できる条件として,併存疾患の数が少ない,片脚起立が安定している,心肺系フィットネス≧50%VO2 max,重度な心疾患・脳血管障害を有していない,高度の関節拘縮を有さない,精神状態が良好,家族が協力的,などが指摘されている1).実用歩行はハードルが高いが,それ以外のゴール(トランスファーや立位の保持)を設定し,ADLの向上や介護負担の軽減などをめざす場合もあり得る.
まとめると,血行障害によるさまざまな合併症を有する高齢切断者への義足適応の判断は実用歩行の場合には可能であるが,多様なゴール設定に対応するものはなく,また,そもそも義足構成要素に関するエビデンスは乏しい,というのが現状といえる.その前提で,「どのように義足適応の有無を検討・判断し,適切な構成要素を選定すべきか?」が主要なクリニカルクエスチョンである.
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