Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- サイト内被引用 Cited by
はじめに
切断者の病院でのリハビリテーションは一見容易そうにみえる.なぜならば,Barthel Index1)やFIM(Functional Independence Measure)2)のようなよく使われるADL(activities of daily living)尺度では計れないほど,その活動性の障害は小さくみえるからである.なかには,精神障害を併せ持っていたり,自殺企図に基づく事故による切断者も含まれるが,日常生活活動の自立という点ではあまり問題がない.最近増えつつある糖尿病による切断も,切断の管理やゴール設定に頭を悩ますが,介護度という点では四肢麻痺等に比べれば軽い.そのようなわけで,リハビリテーションチームはとかく切断者のリハビリテーションでは,切断者が容易にそして短期間にそのゴールに到達すると考えがちである.最悪の場合には,車いす等の代替えによる移動の自立でもかまわず,また上肢切断においては,両側切断以外は片手動作でADLは可能である.すなわち,ADLの自立という点では最初からゴールに到達していると言っても過言ではない.
しかし,切断者のリハビリテーションにおいては3つの特異的な要素がある.すなわち,1 身体欠損や事故体験からくる心理的負担感,2 断端痛や幻肢痛,異常感覚,3 義肢の適合,である.実際に,切断者は四肢の切断を受けることによってひどく心が傷つけられていることが多い.その結果,うつになったり,義肢を受け入れようとしなかったりすることが生じてくる3-8).故に切断者のこのような心理を踏まえたリハビリテーションが重要となる.一方で,義肢の適合というものも同時に切断者にとって重要である.とりわけ下肢切断者にとって義足の適合が悪いと歩行が不可能となり,機能的にも痛手となる.
以上のことから,切断者のリハビリテーションの帰結を考えるうえでは,機能的な面のみならず,そのQOL(quality of life,生活の質)という観点からの評価が必要となる.
切断者のQOLについては,近年報告がみられるようになってきた.疾患非特異的な健康関連QOL尺度としてのSF-36(the MOS 36-item Short Form Health Survey)は,近年,切断者に対しても適用されている9).SF-36は日本語正式版が作成されており10),その切断者に対する適用の信頼性と妥当性も証明されている11).このような一般的な健康関連QOL尺度を適用する利点としては,切断者の健康関連QOLを他の障害をもつ人々や,障害のない一般人口と比較できるという利点をもつが,一方で切断者の抱える特殊な点において感度が低い可能性がある12).切断者に特異的なQOL尺度がいくつか開発されている.SATPRO(Satisfaction with Prosthesis)はBilodeauらによって1990年に開発され,報告された13,14).これは義足に対する満足度と使い易さの尺度である.OPOT(Orthotics and Prosthetics National Pffice Outcomes Tool)は,下肢切断者のQOLと機能を評価するためにHartによって開発された15).他にも,PPIS16),TAPES17),PEQ18)などが開発されている.日本においても同様な尺度が必要であるが,国際比較の観点から,多くの言語に訳され,かつ日本人に答えやすい尺度の日本語版を作ることが必要と思われる.
PEQ(Prosthetics Evaluating Questionnaire)は義足に関連する健康関連QOLの尺度である.15個の下位尺度をもち,歩行(AM),義足の外観(AP),義足使用に伴う挫折感(FR),義足に関連した周囲の反応(PR),対側下肢の状態(RL),社会的重荷(SB),使い勝手(UT),音(SO),生活の満足(WB),満足(ST),疼痛(PN),移動(TR),自尊意識(SE),その他(OT)の質問からなる.スコアはVAS(visual analog scale)で評価されるので,連続値としての分析が可能である.一部の質問のみを使用することも可能であるし,実態調査としても使用可能である.このような特徴があることから,筆者らは,原著者に許可を求め,日本語版を作成した.
その手順を以下に述べる.まず日本語訳を行った.次に原著を知らない,日本語と英語のbilingualの方に逆翻訳(back translation)を依頼し,日本語版から逆翻訳版を作成した.その逆翻訳版を原著者に送り,正しく意味が伝わっているかをチェックしてもらった.何回かの修正を経て,日本語版が完成した.また日本人による読み合わせによって,わかりやすい日本語にするようにも努めた.
この論文の目的は,このPEQ日本語版(PEQJ)の信頼性を証明することと,日本の生活様式の影響について考察することである.それによってPEQJが日本の切断者のQOL尺度として使用可能かどうかを明らかにすることである.
Copyright © 2004, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.