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リハビリテーション医学は,疾病や外傷その他の要因によって引き起こされた障害を回復させ,人間らしい生活を取り戻すことを目的としている.人間として,また生物としての基本的な活動は,脳からの命令が神経系を通じて筋組織に伝達し,体を動かすことであり,人間としてのほとんどの活動はこのシステムによって行われている.脳と筋の機能回復は,リハビリテーション医学において最も古くかつ現在も重要であり,これからも重要課題であると考えられる.われわれは,このような観点から“中枢神経障害からの機能回復”と“筋力増強”を2つのテーマとして取り組んできた.研究手法として,臨床研究が重要であるのはいうまでもないが,臨床研究では実施困難なものも多く,基礎研究も重要であると考えられる.特に,リハビリテーション医学領域では大学における講座の設置が遅れていることもあり,基礎研究がまだ十分実施されていない状況である.われわれは,実験動物を用いて中枢神経障害の機能回復と筋力増強の分子生物学的検討を行ってきた.ここでは中枢神経機能回復について述べる.
われわれは,ラット脊髄損傷モデル,ラット脳梗塞モデルを作成し,中枢神経障害後の大脳皮質の反応,機能回復につき解析を行ってきた.まず,一次運動ニューロンの軸索切断による大脳皮質の変化を調べるため,脊髄切断後大脳皮質の初期遺伝子産物c-Fosタンパクの免疫組織化学染色を行い,大脳皮質での遺伝子転写につき解析した.脊髄切断による大脳皮質の感覚運動野では,1時間後から多くの細胞でc-Fosタンパクの発現が認められた.c-Fosタンパクは,遺伝子発現の初期に発現する転写因子で,遺伝子転写が活発に行われていることを示す.このことは,中枢神経損傷に際しごく短時間に大脳皮質の何らかの遺伝子発現が促進されていることを示す1).
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