連載 感性の輝き・第28回
コミュニケーションを積み重ねる
山本 徹
1,2
1医療法人社団永生会在宅総合ケアセンター
2訪問看護ステーションとんぼ
pp.759
発行日 2015年10月15日
Published Date 2015/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5003200235
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現在,私は居宅への訪問を中心に言語聴覚療法を提供しているが,言語を介さないコミュニケーション場面づくりも大事な仕事だと強く感じている。コミュニケーション場面づくりを仕事にしようと思ったのは,STになる前に職員をしていた授産施設の利用者との出会いがきっかけだった。
音声言語での表出がとても難しい脳性麻痺の40歳代の女性を送迎車で自宅まで送っていた時のこと。私がST養成校に合格し退職することを伝えると,車いすから立ち上がらんばかりに全身を伸展させて,おめでとうの気持ちを伝えてくれた,と私は受け取った。原始反射の抑制が効かないことを祝う気持ちとしてとらえるなど,私に都合の良い解釈があるかもしれない。しかしその送迎時間は私にとって,とても豊かなコミュニケーションの時間となった。他人のことを自分のことのように喜ぶ表現,言葉をはるかに超えて気持ちを伝えた利用者の力に,この人のように気持ちを伝えることができたらすばらしいとも思った。会話を通して自分の能力を明らかにすることは社会に認められる重要な機会であると言われているが,言葉の操作が難しかったとしても,さまざまなかたちで思いを外に出して伝えることで,その人の価値を高めることができる可能性を感じた。
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