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はじめに
頸椎症性脊髄症(cervical spondylotic myelopathy:CSM)は,加齢性変化(後方骨棘,椎間板狭小化と後方膨隆)と動的因子である頸椎の前後屈不安定性や軽微な外傷が加わって生じる脊柱管狭窄によって脊髄の圧迫が引き起こされることで,さまざまな神経症候を呈する疾患の総称である8).CSMの発生頻度は欧米人に比較して脊柱管が狭い日本人に高いとされ11),病態や治療法に関する研究については本邦からの報告も多い.CSMは男性優位に50歳以上の発症が多く,CSMで認められる頻度の高い臨床症状としては,手指のしびれ感や巧緻運動障害,歩行障害などがあるが,手指のしびれ感を初発症状として発症する頻度が高い3).また,手指の巧緻運動障害はCSMに特徴的で頻度の高い症状として脊椎外科医にも認識されており,いわゆる“myelopathy hand”はCSMの代表的な臨床徴候として知られ,多くの研究もなされている.
Myelopathy handは,①尺側の1ないし2指(小・環指)の内転が障害され,さらに進行すると伸展も障害された状態,②手指の素早い把握動作とその解除(いわゆるグー・パー)が行えなくなる状態と定義される14).客観的指標としては,finger escape signや10秒テストが脊椎外科医において広く用いられており,後者では手掌を下にして手指をできるだけ早くグー・パーしてもらい,10秒間に手指の把握・伸展動作が何回行えるかを測定する.健常者では通常10秒間に25〜30回程度は可能であるが,CSM患者では20回以下に低下し,通常20回未満が異常とされる.CSM患者がmyelopathy handを呈する割合は90.3%という報告もあり13),myelopathy handを調べるためのfinger escape signや10秒テストの詳細については本誌の別稿も参照いただきたい.
一方,CSM以外にも手指の巧緻運動障害を呈するさまざまな疾患においては,myelopathy handを調べる諸々のテストは当然ながら異常となる.本稿では,このようなmyelopathy handと紛らわしい手の徴候を呈し,CSMとの鑑別がしばしば問題となる神経疾患,およびそれらの疾患とCSMを正確に鑑別するための病歴聴取や臨床症候の注意点について概説する.
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