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はじめに
脊柱靭帯骨化症は全脊椎に発生し得る異所性骨化病変であり,われわれ脊椎外科医が最も高頻度に遭遇するのが後縦靭帯骨化(ossification of the posterior longitudinal ligament:OPLL)である.これらは脊髄圧迫をきたすことで神経障害を引き起こし,重大な機能障害をきたすことがある.疫学的な調査では,Fujimoriら1)が報告するように,OPLLの有病率は,白人種の0.1〜1.3%に比べて,黄色人種であるアジア人,特に日本人において1.9〜4.3%と高く,脊柱靭帯における骨化傾向が強いことがわかっている.また,骨化巣は頸椎だけではなく,脊髄の易損性が高く重篤な麻痺を生じ得る胸椎でのOPLLを併存することも珍しくない.それら骨化の分布を把握するのはきわめて重要と考えられる.単純X線での評価が一般的であった時代,和田ら10)は頸椎OPLL患者において17.5%が胸椎に,12.6%が腰椎にOPLLを併存していることを示した.また,全脊柱CTを用いて単施設における連続した178例の頸椎OPLL症例を調査したKawaguchiら4)は,過半数を超える53.4%において胸腰椎に骨化巣が併存していることを報告した.これらから,多地域で多くの症例を収集し,頸椎以外のOPLLの発生予測因子を抽出することが重要と考えた.
また,前縦靭帯骨化(ossification of the anterior longitudinal ligament:OALL)はOPLL同様,日本人に比較的高頻度に存在するといわれる.特にResnickが提唱した胸椎における連続した4椎体が架橋するびまん性特発性骨増殖症(diffuse idiopathic skeletal hyperostosis:DISH)の状態は,臨床的に無症状のものが大半であると考えられているが,その形態学的特徴より微小外力によっても骨折が生じ,ときに重篤な麻痺に至ることが知られている.初療時に単純X線だけでは診断をつけることが困難なことが多く,整形外科医の読影でも看過されることがあり,潜在的にDISHが存在する可能性を常に念頭に置くことが重要である.また,黄色靭帯骨化(ossification of the yellow ligament:OYL)も頸椎OPLLと併存し,特に胸椎にみられることが多い.脊髄障害を呈している患者で頸椎OPLLと診断されている場合でも,精密検査によって胸椎OYLを合併し脊髄障害をきたしていることも少なくない.われわれの臨床経験からも脊柱靭帯骨化はそれぞれの靭帯で互いに併存することが多いことを認識しているが,現在までに頸椎OPLL患者にどの程度ほかの靭帯骨化巣が存在しているか,またその発生高位を詳細に検討した研究はない.
そこで,厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業・脊柱靭帯骨化症に関する調査研究班(厚労省科研費脊椎靭帯骨化症研究,JOSL study)で,協力施設において同意の得られた頸椎OPLL患者のうち全脊柱CTを撮影した患者を後ろ向きに調査し,胸腰椎におけるOPLL3),DISH11),項靭帯骨化(ossification of the nuchal ligament:ONL)8),棘上棘間靭帯骨化(ossification of the supra- and inter-spinous ligament:OSIL)7)およびOYLの併存率,胸腰椎OPLLの存在予測因子の検証に加え,DISHの存在高位についてクラスタリング解析を用いて検討したので報告する.
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