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はじめに
作業療法の臨床では,ICFにおける活動と参加を支援することに注目している.もちろん,健康状態や心身機能・身体構造,環境因子,個人因子が活動と参加に関連しているため,それらにも注目して支援するが,活動や参加に取り組むためには,本人の意思に基づく「運動」が前提となる.不随意な運動もあるが,意思に伴って発生する随意的な運動は,動作や行為につながる.活動や参加に至る運動には,骨格筋の活動が必要である(生命活動を維持するためには,平滑筋等,臓器における運動も必要だが,本稿では人が活動・参加に取り組むための運動として,骨格筋に絞って記述する).このことから,人の生活行為には骨格筋の働きが重要であり,前提となっていることに異論はないであろう.
骨格筋を働かせ運動をもたらすことは,健康状態を維持・向上させることがわかっている.骨格筋の活動は,エネルギー消費を増し,肥満,糖尿病,高脂血症等の生活習慣病の予防や治療に有用である1)といわれている.過度の運動は逆効果であり,疲労を残さない程度の適度な運動の習慣化が推奨されており,上気道感染症の発症頻度が半減し,免疫能も高まると考えられている1).また,地域在住高齢者で身体活動が多い群と少ない群を4年間追跡調査した結果,身体活動は高齢者の筋量・筋の質において維持改善の効果があることが示された2).
たとえば,腹直筋や多裂筋等,姿勢保持に重要な役割を担っている体幹筋は,最大収縮の1〜3%の働きで十分目的を達成する3)といわれている.生活が自立している高齢者は,日常の姿勢保持におけるわずかな筋収縮の持続により体幹筋の筋量を維持できているが,長期臥床することでこれらの体幹筋は萎縮する4).また,牛島ら5)は,主観的運動強度が強過ぎないレベルの有酸素運動を,健常成人(23〜69歳,男性2名,女性26名)に1回1.5時間程度,週2回,2カ月間実施した結果,抑うつや不安等(憂うつ感,イライラ感,落ち着きのなさ,不安感,便秘の状態)の減少を報告した.また,有酸素運動前後の気分の変化をSTAI-S(State-Trait Anxiety Inventory State-form:状態不安検査)にて測定し,運動の種目にかかわらず状態不安が低減することを示している.このことから牛島ら5)は,有酸素運動が抑うつや不安の低減に効果的であり,運動前後にはネガティブな気分がポジティブに,ポジティブな気分はさらにポジティブに変化させ得るというメンタルヘルスに対する効用を提示している.
以下の項では,運動をもたらす骨格筋において,その解剖学的,生理学的,運動学的特徴を記載し,筋力の増加・減少,測定について記述する.
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