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はじめに
筋力(muscle force)は,外界に対する人間のほぼ全ての出力の源泉となる.そのために,筋力の評価はリハビリテーション医学の中心的課題である4).
運動学上のkineticsやkinematicsは運動の結果に関する分析であり,それを生み出す原因は筋収縮にある.したがって,筋活動の評価こそが原因を探るために重要になる.しかし,筋力を運動中,直接,非侵襲的に測ることはごく限られた場合以外,困難である.また,関節周りに生じる力を測れたとしても,それは,共同筋,拮抗筋,腱,靱帯,慣性などの作用の総計であり,個々の筋活動そのものではない.関節モーメントの計算も同様の限界を有している.そこで,筋力発生の過程で生じてくる筋電図を検討することにより筋力を理解できないかという展望が提示され,探究されてきた.
例えば,共同筋群のうち,どの筋肉がどの程度どのように働くかという問題には筋電図(針筋電図を含めて)による推定が妥当である7).特に働くタイミングといった問題についてはかなりの信頼性を持って答えることができる.訓練法としての筋電図バイオフィードバックや筋電図を利用した動作指導32)も進歩しつつある.また,臨床的には電動義手などassistive deviceへの入力法として健常部の筋電図を用いることが,その自然さから望まれ開発されてきている.
さて,筋力発生の中心は運動単位(motor unit)にある.そのために運動単位は最終共通路(final common path)と呼ばれ,興味の対象になっている.
ヒトの場合,運動単位は,筋肉当たり100(手内筋)~1,000以上(下肢の大筋)存在する.各運動単位は,筋線維を数本(外眼筋)から数千本(下肢の大筋)有している.その結果,最大の運動単位は最小の運動単位の100~200倍以上の力を出す.筋線維の脱分極持続時間は約0.5msであり,伝導速度は数m/sである.この活動電位を運動単位活動電位(Motor unit action potential;MUAP)という.そして,MUAPの時間的,空間的干渉波が筋電図である25).
この運動単位から筋力発揮のメカニズムを見たとき,3つの神経系の調整機能が注目される.recruitment,rate coding,synchronizationである.この3つの機能はMUAPを通じて直接,筋電図上に反映される.したがって,筋電図と筋力との関係を探究することによって,運動制御におけるこれら3者の調整機能への理解が深まる.また,筋力増強効果の機序に関しても有用な洞察が可能になる.
ところで,実際の筋力は,筋線維の電気的活動が興奮収縮連関(E-C coupling)を経て,収縮という機械的過程に変換され発揮される.そこには,筋線維の収縮特性,弾性,粘性などの物理的特性,そして,腱,筋付着部位,関節特性,力の方向,共同筋,拮抗筋,疲労,などの変数が介在する.したがって,筋電図という電気的変数から筋力という物理的変数を推定する際には,多くの制約条件に配慮しなければならない.
ここでは以上のような前提を踏まえて,表面筋電図と筋力との関係を考える際に重要な臨床的項目をあげて,概説する.なお,表面筋電図に関しては歯科,口腔外科領域における咬筋の筋電図に関する膨大な研究が存在するが,筆者らの知識の及ぶところでないため取り上げない.
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