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理学療法における筋力トレーニングは,筋力増強もしくは筋力維持を目的としている場合が多い.しかしたとえ筋力維持を目的としたものであったとしても,一定以上の張力を筋に与えそれを繰り返す以上はこれも筋力増強であると言える.整形外科疾患などで片側下肢の非荷重を余儀無くされた場合,その下肢筋の筋トーヌスは急速に低下し,しだいに筋萎縮を伴いながら筋力低下が生じる.この筋力低下および筋萎縮を可能な限り最小限に,できるなら生じさせないようすることも運動療法の重要な目的である.しかしこのような筋トーヌス低下,筋萎縮,筋力低下を防ぐことは非常に困難であり,まして痛み,不動などの要素さらには神経筋障害などの原因が加わればなおさらである.
このようななかで筋トーヌスの低下,筋萎縮の有無,筋力の関係は多彩であるが,明らかな筋組織学的,神経筋生理学的な異常が有るにもかかわらず筋力が正常範囲内にあるかもしくはわずかに低下しているような場合,筋トーヌスの低下,筋萎縮などに特に注意を払わず,さらに筋力が低下しても荷重を開始すれば,使い始めれば回復するなどの予測で放置する場合が多く,これらに対して主として単純な筋力増強のトレーニングを続けてきた経緯がある.これは何があろうと筋力が正常範囲あれば十分であるという単純な概念に支配されていると痛感している.一年を経過しても筋トーヌス,筋萎縮,筋力が回復せず異常歩行を呈しているとしても,痛みが有るのだから,アラインメントが変わったのだからとするのは当然ではあるがいかにも発展性が無く消極的であり,ただでさえ関節可動性と筋力という狭い概念からなかなか脱しきれないのでいるのなら,せめてその筋力の背景の分析と筋力トレーニングの方法について試行する必要があると常々考えてきた.
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